――時間は、夜の20時を回っていた。
眞姫は自分の部屋の窓から、ふと天を仰ぐ。
そして書いた短冊を、前もって準備していた小振りの笹に飾った。
「やっぱり、見えないのかな……」
大きなブラウンの瞳に映る空は、少し雲がかかっている。
東の空にあるはずの織姫星・ベガと牽牛星・アルタイルは、なかなかその姿を彼女の前に見せない。
眞姫はたくさん書いた短冊をひとつひとつ飾りながら、空を見上げる。
それから、ふと自分の願い事を書いた短冊に視線を落とした。
「この願い事は大切だから、一番上に飾っておかなきゃね」
眞姫はそう呟き、その短冊を小振りの笹の高い位置に飾る。
そして、おもむろに手を合わせた。
「どうか、この願い事だけでも叶いますように……」
その――願い事とは。
『みんなが怪我をせず無事で、いつまでも元気に笑っていられますように』
眞姫はもう一度願を掛けた後、再び空に視線を上げた。
その時。
「あ……!」
眞姫は思わず声を上げ、目を大きく見開く。
そんな――彼女のブラウンの瞳に映ったものは。
途切れた雲間から、天に架かる天の川とその両岸で光を放つふたつの星が見えたのだった。
眞姫はうっとりと、美しい光を湛える星空を見つめる。
そしてしばらく空見つめていた眞姫は、ふと手に持っている1枚の短冊の存在に気がついた。
それから、それを笹に飾ったのだった。
そんな、最後の1枚に書かれていた言葉。
『いつかきっと、私のひこ星様と幸せになれますように』
まだそのひこ星が、今は誰だか分からないけれど。
もしかしたら、もうすでに自分のすぐ近くにいるのかもしれない……。
そう感じながらも、眞姫は天を仰いだ。
そしてまるで自分のことのように、織姫とひこ星の再会を心から喜んだのだった。