Sacred Blood 七夕企画





 どのくらい、空に架かる天の川とふたつの星を眺めていただろうか。
 眞姫は窓とカーテンを締め、部屋の明かりをつける。
 曇っていたために長時間天の川を見ることはできなかったが、少しだけでも目にすることができて、眞姫は満足していた。
 それから、数学の宿題をしようと机に向かおうとした。
 ……その時。
 眞姫の携帯電話が、おもむろに誰かからの着信を知らせる。
 眞姫はカバンから携帯電話を取り出し、着信者を確認して小さく小首を傾げた。
 そして、通話ボタンを押す。
『鳴海だ。今、話をしても大丈夫か?』
「あ、鳴海先生。はい、大丈夫です」
 電話の相手は、鳴海先生だった。
 滅多に電話などかけてこない先生からの着信に、眞姫は何事かと瞳をぱちくりさせる。
 そんな眞姫の心情もお構いなしで、相変わらず淡々とした声で先生は話を始めた。
『明日の朝補習の数学だが、事前に資料を配っておきたい。悪いが、朝登校時に数学教室にそれを取りに来てくれ』
「はい、分かりました」
 眞姫は先生の言葉にコクンと頷き、栗色の髪をそっとかき上げる。
 それから、おそるおそる先生に訊いたのだった。
「あの、鳴海先生。今日って、七夕ですよね。天の川、見ましたか?」
『東の空に、先程まで綺麗に架かっていたな。今はもう、雲に覆われて見えないが』
 眞姫の問いに、先生はすぐにそう答える。
 まさか先生も天の川を見ていたなんて思ってもいなかった眞姫は、驚いたように声を上げる。
「えっ、先生でも、天の川なんて見るんですか!?」
『……おまえが質問してきたのだろう? それに、私でもとはどういう意味だ』
「あっ、す、すみませんっ。何だかちょっと、意外だったんで」
 慌ててそう弁解した後、眞姫は気持ちを落ち着かせるために一呼吸置く。
 そして、にっこりと微笑んで言葉を続けた。
「でも少しの間でも、織姫とひこ星が会えてよかったですよね。今はもう、雲がかかっちゃったけど……」
 そんな眞姫の言葉に、電話の向こうで鳴海先生は小さく溜め息をつく。
 それから、ゆっくりとこう言ったのだった。
『確かに、今空は雲に覆われている。だが、天の川もベガもアルタイルも、雲よりもはるか上空にあるものだ。だから地上にいる我々からはみえなくても……きっと今もふたつの星は、再会の喜びを分かち合っていることだろう』
「鳴海先生……」
 先生の言葉に、眞姫は思わず言葉を切る。
 そして、ふっと笑顔で答えたのだった。
「そうですね。きっと、ふたりで幸せな時間を過ごしてますよね。それにしても鳴海先生って、やっぱりおじ様の息子なんですね。何だか似てるなって……」
 そう言って思わず笑ってしまった眞姫に、不服気に鳴海先生は言った。
『父に? 私はあの人に似てるという自覚は、微塵もないのだが』
「いえ、似てるなーって思いました。結構鳴海先生も、ロマンティストなんですね」
 普段は全く似ていない、先生と傘の紳士だが。
 意外とロマンティストな先生のその言葉を聞いた眞姫は、やはりこのふたりはどこか似ているとそう思ったのだった。
 そして。
 鳴海先生の言う通り――織姫とひこ星のふたりは、雲がかかった今も一年越しの再会を喜び合っているのだろう、と。






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