Sacred Blood 七夕企画





「おい、聞こえなかったのか? この僕が、午後ティーのレモンティーが飲みたいって言ったんだよ。なのに、ストレートしかないし」
 ぶつぶつ言いながら、渚は隣の智也にじろっと目を向ける。
 智也はそんな渚の様子にも慣れたように、自分の飲み物を取り出して渚の持っているかごに入れた。
「レモンティーなら、あっちにパックのヤツがあったよ。それで我慢しとけ」
「は? 何言ってんの、おまえ。午後ティーじゃなきゃ意味ないんだよ。ていうか、何気にかごに入れんなっての」
 はあっと溜め息をついて、渚はチッと舌打ちをする。
 ――時間は、21時前。
 今このふたりは、駅前のコンビニに来ていた。
 渚はお目当ての午後ティーがなかったために不機嫌になりつつも、仕方なく別の飲み物を手に取る。
 智也はそれを見て、クックッと笑った。
「おまえ、何で午後ティーがないとかブツブツ言ってたくせに、カルピスウォーターなんて買うんだよ」
「あーうるさいなっ。あと3秒で黙らないと、ぶっ飛ばすからなっ」
 気に食わない表情でそう言って、渚は智也に漆黒の瞳を向ける。
 智也はそんな渚の様子に笑いながらも、ふと店内に飾ってあった小さな笹の木を見て口を開いた。
「あ、今日って七夕なんだな。一年に一回じゃないけど、俺と眞姫ちゃんってなかなか会えないからなぁ。織姫とひこ星みたいじゃないか?」
 そうしみじみと言った智也の言葉を聞いて、渚は鼻で笑う。
「何ほざいてんの、おまえ。清家先輩が織姫? バーカ、先輩は僕のお嫁さんって決まってんだよ」
「お嫁さん……おまえって、時々言うことが妙に可愛いよな」
「うるさいなっ、ていうか今すぐ黙れっ。だいたい図々しいんだよ、おまえが先輩のこと好きになるなんて」
 ムッとした表情を浮かべ、渚はわざとらしく大きく嘆息する。
 それから、興味なさそうに続けた。
「七夕とか織姫とかひこ星とか言ってるけどね、知ってんの? 織姫って言われてる琴座のベガと、ひこ星って言われてる鷲座のアルタイルって16光年も実際離れてるんだよ。なのに、一年に一回のデートなんて出来るワケないだろ? ちょっとは現実に目を向けろっての」
「おまえって妄想癖なのか現実主義なのか、バカなのか頭いいのか分からないよな、ホント」
 何気に学校の成績は抜群な渚のその言葉に、智也は首を捻ってそう呟く。
 渚はそんな智也の言葉に、妙に自信満々に言った。
「やっと思い知った? この僕が、何でも備わった完璧な人間だって」
「その究極に自分の都合のいいようにしか物事を取らない性格、ある意味羨ましいよ」
 智也はそう言ってから、ふと顔を上げる。
 そして何かに気がつき、渚の肩を叩いて言った。
「おい、渚。あれって……」
「え? あっ」
 智也の視線を追った渚は、パッと一瞬にしてその表情を変える。
 それから、急にタッタッとその場を駆け出した。
 そして。
「清家先輩っ!」
「あっ、渚くん?」
 数学の宿題中に消しゴムを使い終えたためコンビニに買いに来た眞姫は、渚の姿を見て驚いた表情を浮かべる。
 智也は渚にようやく追いつき、目の前の眞姫ににっこりと微笑んだ。
「こんばんは、眞姫ちゃん」
「あ、智也くん。こんばんは」
 すっかり猫かぶりモードになった渚は、得意の甘えたような声で眞姫にこう言ったのだった。
「清家先輩とこんなところで会えるなんて、嬉しいですっ。今日は七夕だから、織姫とひこ星の導きかな? なんて」
「……よく言うよな、本当に」
 渚の言葉に、智也は呆れた様子でそう呟く。
 眞姫は渚の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
「そうだね、今日は七夕だもんね。一年に一度のこの日が少しでも晴れて、よかったよね」
「はい。織姫とひこ星のふたりも、ちゃんと出会えてよかったですよね」
 ジャニーズ系の顔に可愛らしい表情を浮かべ、渚は大きく頷く。
 智也は180度態度の違う渚に苦笑しつつも、眞姫に言った。
「俺も嬉しいよ、眞姫ちゃんに会えるなんて。買い物?」
「うん。消しゴムなくなっちゃったから、買いに来たの。じゃあふたりとも、またね」
 眞姫はふたりに軽く手を振り、そして歩き出した。
 そして、そんな彼女と少し距離ができた……その時。
 渚はベビーフェイスに気に食わないような表情を浮かべ、智也に目を向ける。
「ったく、僕と先輩の邪魔すんなよなっ。マジでぶっ飛ばすぞ、おまえ」
「本当におまえって、ある意味めちゃめちゃ器用だよな。こっちがぶっ飛ばしたいくらいだよ。ていうかほら、そろそろ金払うぞ」
 はあっと嘆息した後、智也は渚の持っているかごをひょいっと取り、スタスタとレジに向かう。
 渚はチッと舌打ちしつつも、智也に続いてレジに向かった。
 それから、気を取り直したように呟いたのだった。
「やっぱり僕と先輩って、出会う運命なんだよ。午後ティーのレモンティーはなかったけど……先輩に会えたから、カルピスでもいいかな」






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