夕焼け色に染まった週末の繁華街は、学校の終わった学生や会社帰りの人たちの声で満ち溢れていた。
 いつもより人で混雑している繁華街の大きな本屋で会計を済ませ、店を出たその少年・芝草准は、真っ赤な夕陽の眩しさにふと瞳を細める。
 それから、人の波に逆らわずにゆっくりと歩き出した。
 今週も学校が終わり、明日は想いを寄せる眞姫や気の知れた仲間たちと遊ぶ約束をしている。
 そんな休日に胸躍らせる、楽しいはずの金曜日なのだが。
 何故か、准のその表情は浮かない。
「…………」
 准はふと足を止め、その顔を上げる。
 彼の目の前には、人で溢れている駅前のバスターミナルがあった。
 そして彼がいつも乗るバスが、ちょうどバス停で停車しているが見える。
 だが准はくるりと身を翻すと、再び繁華街の雑踏へと戻り始めた。
 先程までと違い足早に人並みを掻き分けて歩を進めていた彼は、ふと大通りから一本外れた道に入る。
 たった一本脇道にそれただけであるが、人の姿はぐんと少なくなった。
 准は周囲の人並みが一瞬途切れたことを確認して、立ち止まる。
 そして振り返り、ゆっくりと口を開いたのだった。
「一体どういうつもりなのか……そろそろ教えてくれても、いい頃なんじゃないかな」
 ……その言葉と、同時だった。
「!」
 カアッと漆黒の光が周囲を飲み込み、閑散とした空間を作り出す。
 准は険しい表情を浮かべ、その“結界”を作り出した張本人に目を移した。
 彼の前に現れた、その人物とは。
「やっぱり君か、相原くん」
 准はそう言って、姿をみせた少年・相原渚を見た。
 渚はわざとらしく可愛く小首を傾げて、にっこりと作った笑顔を准に向ける。
「こんにちは、芝草先輩。よく僕だって分かりましたねぇ、微妙に気配消してたんだけど」
「さっきから癇に障る“邪気”が僕の後を尾けているなって思ってたけど、やっぱり君だったんだね」
 ふうっと大きく嘆息して、准は渚を見据えた。
 渚は可愛らしい顔に作った微笑みを浮かべたまま、准に視線を返す。
「僕だって、学校終わってからも、わざわざ先輩なんかと顔を合わせたくないんですけどね。でも、“邪者”としてのお仕事だから仕方ないし。それに、ゲームにも負けたくないし」
 そこまで言って、渚はふっと漆黒の瞳を細めた。
 そして、先程までの可愛らしいものとは明らかに違う、煽るような声でこう続けた。
「そういうことなんで、この僕にちょっと付き合ってくださいよ。ね? 芝草先輩」
「…………」
 渚の身体から感じる“邪気”に眉を顰めた後、准はふっと身構える。
 渚はそんな准の様子を見て、くすっと笑った。
「ちょうどよかったな、先輩のこと前から気に食わなかったんですよね。何か穏やかそうで善人ぶってるけど実は腹黒でタチ悪そうだし、いつも僕の清家先輩のそばにいてウザイし」
「その言葉、そっくりそのまま何ならノシもつけて君に返すよ、相原くん」
 相変わらずの渚の生意気な言動にも動じず、准は彼の動きに注意を払いつつも言葉を返す。
 渚はスッと右手を後ろに引くと、その手に漆黒の光を宿した。
 そして、ニッと口元に笑みを浮かべて言ったのだった。
「そんなに時間は取らせませんよ。先輩のこと殺すくらい、すぐ済みますから」
「君のその根拠のない自信は一体どこからくるのか、いつも不思議だよ」
 准はグッと手に力を込め、“気”を漲らせる。
 それと同時に、ふたりの掌から眩い衝撃が放たれた。
 ふたりの中間でお互いの光が衝突し、カアッと“結界”内を眩い光が弾ける。
 准はすぐさま“気”を纏った手を翳すと、目の前に防御壁を形成させる。
 次の瞬間、いつの間にか繰り出されていた渚の複数の漆黒の光が“気”の壁にぶつかり、その威力を失った。
 渚は漆黒の瞳を細め、狙いを定めるように再び漆黒の衝撃を放つ。
 ゴウッと唸りを上げて襲い掛かる“邪気”に全く慌てる様子もなく、准はスッと腕を前に突き出した。
 そしてその光を受け止め、ジュッという音とともに難なく浄化させる。
 その時。
「……!」
 ふっと視線を別の場所に移し、准は素早く身を翻した。
 ビュッという音が耳元で鳴ったと思うと、一気に距離をつめた渚の蹴りが空を切る。
 追って繰り出された“邪気”の光をかわし、准はグッと拳を握り締めた。
 そして、一瞬隙の生じた渚目がけてそれを放つ。
 渚は咄嗟にその攻撃を腕でガードした後、逆手に“邪気”を漲らせた。
 それに反応し、准もその手に“気”を宿す。
 刹那、激しい衝撃音とともに、再び眩い光が周囲を包み込んだ。
 渚の放った漆黒の光を咄嗟に防御壁で防いでから、一旦准は距離を取る。
 それから、渚の次の動きを慎重に待った。
 渚は鬱陶しそうに前髪をかき上げた後、ふうっと溜め息をつく。
「あーもう、本当にムカツク。その防御壁、かなりウザイんですけど。それに、まずはとりあえず様子見ってカンジですか? この僕相手に手なんて抜いてたら、ソッコーで死にますよ、先輩」
「君の“邪気”をもってしても、そう簡単に僕の防御壁は破れないよ。それに君こそ、例の“赤橙色の瞳”を出し惜しみしてるだろう? お互い様だよ。それに、僕のことを殺すくらいすぐ済むんじゃなかったっけ? まだ僕は無傷だよ」
「まったくもう、口が減らないんだから。焦らなくてもそのうち、ぐうの音も出ないくらいボコボコにしてあげますよ」
 自分のことを棚に上げ、渚は准の言葉に気に食わない表情を浮かべる。
 それからスウッと漆黒の瞳を閉じ、強大な“邪気”を全身に纏った。
 准は渚の“邪気”の大きさが増したことを感じ、表情を引き締める。
 瞳を伏せたまま、渚はニッと口元に笑みを宿した。
 そして、ゆっくりとその瞳を開く。
 その瞳は……闇のような漆黒から燃えるような真紅へと、その色を変えていた。
「! あれが例の、“赤橙色の瞳”」
 先程と比べ物にならないくらい大きくなった渚の“邪気”に対抗すべく、准は改めて身構える。
 赤を帯びた瞳で准を見据え、渚はふっと漆黒の光を漲らせた右手を掲げた。
「!」
 刹那、空気が渦を巻き、強大な衝撃が渚の手から放たれる。
 准はクッと唇を噛み、それを防ぐべく“気”の防御壁を形成させた。
 ドオンッと今までで一番の衝撃音が、“結界”内に轟く。
 渚はふっと地を蹴ると、今度は接近戦へと持ち込んだ。
 ビュッと風を切るように、握り締めた拳を准目がけて繰り出す。
 牽制するように放ったその拳をかわす准の次の動きを読み、渚は瞬時に再び攻撃へと移った。
「くっ!」
 間髪いれずに襲い掛かる渚の蹴りを咄嗟に腕でガードし、准は重い衝撃に歯を食いしばる。
 渚は攻撃の手を緩めず、准の腹部を狙って膝蹴りを放った。
 それを身を翻して避けて、准は体勢を立て直そうとする。
 そんな准の動きを把握している渚は、そうはさせまいとギュッと右手を握り締めた。
 准は襲い掛かってきた渚の拳を掌で受け止め、そして素早く攻撃に転じる。
 だが渚は赤い両の瞳を細め、軽々と准の放った蹴りをかわした。
 それからふたりは、同時にその手に大きな光を宿す。
 次の瞬間、カアッと眩い光が弾けた。
 そして互いの力の性質が、はっきりとふたりを攻と防に分けた。
 耳を劈く轟音とともに、准の張った防御壁に渚の“邪気”が激突し、ふたつの光はお互い消滅する。
「あー、またそのウザイ防御壁ですか? 今度はその壁、ぶち抜いてあげますから」
「そんなことが君にできるのかな。調子に乗ってるとまた痛い目に合うよ、相原くん」
 憎々しげに生意気な口を叩く渚に、准は視線を向けてそう返す。
 渚はふっと笑い、真紅の瞳を細めた。
「どうせ小椋先輩と蒼井先輩に、この“赤橙色の瞳”の攻略法だか何だかを聞いたのかもしれませんけど、全くの無駄ですよ。あのふたりの先輩とドンパチした時は少し油断したけど、今はもう一瞬だって隙はみせませんし。それに芝草先輩の慎重な戦い方は、僕の“赤橙色の瞳”とは相性が悪いですからね。そういうことで、覚悟はいいですか?」
「本当によく喋るよね、君って。それに、確かに僕の戦い方はその瞳と相性が悪いかもしれない。でも、そう思ってばかりだったら足元をすくわれるよ、相原くん」
 准はふっと身構え、渚の出方をうかがう。
 だが確かに渚の言うように、力というよりも策で相手に攻撃を仕掛けるタイプの准にとって、あの“赤橙色の瞳”は厄介である。
 何か打開策はないかと、准は再び高まる渚の“邪気”を見つめながら、思考を巡らせる。
 とはいえ、以前渚の“赤橙色の瞳”と対峙した時に取った拓巳と健人の作戦は、もう彼には通用しないであろう。
 准は注意深く渚の動きを見据え、“邪気”に対抗すべく“気”を宿す。
 それからふと、何かを思いついたように准は瞳を細めた。
 渚はそんな准に視線を向け、バッと“邪気”を纏った手を掲げる。
 その瞬間、複数放たれた漆黒の光が様々な軌道を取りながら准に襲いかかる。
 四方から迫る衝撃を、准は今度は身を翻してひとつひとつかわした。
 准を捉えきれなかった光が、地面に衝撃の痕を刻む。
 渚はおもむろに橙色を帯びる赤の瞳を細め、ふっと動きをみせた。
「! くっ」
 相手の動きを読んだ渚の容赦ない拳が、唸りを上げて准目がけ繰り出される。
 何とかそれを避けた准は、渚の次の攻撃を見極めようと彼を見据えた。
 渚は蹴りを放ち、それをかわした准を狙って続け様に拳を向ける。
 それを身を屈んでやり過ごした准に、すぐさま渚は膝蹴りの体勢に入った。
 その予備動作を見逃さず、准は身を翻す。
「先輩、逃げてるばっかりじゃどうにもなりませんよ?」
 自分の攻撃をかわすことに徹している准の様子に、渚はふっと笑った。
「…………」
 准はそんな渚の言葉にも表情を変えず、襲いかかってきた蹴りを腕でガードする。
 渚はニッと不敵な笑みを浮かべると、その手に“邪気”を宿した。
 バチバチと音を立てる漆黒の球体を形成させた後、渚はグッとそれを後ろに引いて反動をつける。
 それから、次の准の行動を“赤橙色の瞳”で読んで、笑った。
「また防御壁を張るのはいいですけど、今度はそれごとぶち抜くって……言いましたよねっ!」
「くっ!!」
 准は“気”を集結させた両の手を、バッとおもむろに前に突き出す。
 そして再び、“気”の防御壁を形成させた。
 ……だが、その時だった。
「! なっ!?」
 渚は次の瞬間、ハッと顔を上げて表情を変える。
 准の防御壁にぶつかった強大な“邪気”が、その威力の一部を跳ね返されたのだった。
「ちっ!」
 目の前に迫る思わぬ光の衝撃に舌打ちし、渚は素早く“邪気”をその手に漲らせる。
 そして衝撃が届く前に、何とか防御壁を形成させた。
 跳ね返ってきた衝撃は、その張られた渚の防御壁に激突して音を立てて消滅する。
「!」
 同じ頃、准もその瞳を大きく見開いた。
 渚の衝撃の一部を跳ね返すことに成功した准だったが。
 すべての威力を弾き返すことができず、残りの漆黒の光が彼の防御壁を突き破る。
 准はクッと唇を結び、咄嗟に腕をクロスに組んでそれを受け止めた。
 重い衝撃に顔を顰めながらも、ぐっと腕に力を込める。
 そしてビリビリと痺れる感覚の後、准は漆黒の光を浄化させたのだった。
「ていうか、攻撃を跳ね返す防御壁まで張れるなんて、本当にウザすぎっ。あーもうイライラするっ! 早いところゲームを終わらせて、ほかの四天王のヤツらとの格の違いを見せつけてやろうと思ってるってのに。何か、めっちゃ頭にきたっ」
 ガッとイライラしたように地面の石を蹴ってから、渚は真紅の瞳を准に向ける。
 そして声のトーンを落とし、ゆっくりと続けたのだった。
「お遊びはここまでですよ、芝草先輩。もう手加減しませんから、覚悟してくださいね」
「望むところだよ、今度は君の攻撃を完璧に跳ね返してあげるから」
 准は射抜くように自分を見据える渚の赤い瞳を真っ向から見つめ返し、構えを取った。
 面白くなさそうな表情を浮かべ、渚は再びその手に“邪気”を宿す。
 准も右手に“気”を集結させ、彼の攻撃に備えた。
 ……その時だった。
 渚はふっと表情を変え、准からおもむろに視線を外す。
 自分の張った“結界”内に、別の誰かの気配を感じたからである。
 そしてその干渉者を確認した渚は、驚いたように赤橙色の瞳を見開いた。
「えっ、清家先輩!?」
「准くんっ、渚くんっ!」
 渚の張った“結界”に侵入してきたのは、眞姫だった。
「! 姫!?」
 准はハッと顔を上げ、眞姫に目を移す。
 眞姫は准のそばに駆け寄った後、渚に向き直った。
「お願い、もうやめて、渚くん。第三者の干渉があった時点で、このゲームは終わりなんだよね?」
「清家先輩……どうして、それを」
「姫、どういうこと?」
 首を傾げる准と驚く渚を交互に見て、眞姫は口を開く。
「あの鮫島涼介っていう人から聞いたんだけど……“邪者”が“能力者”ひとりひとりに同時に攻撃を仕掛けるゲームをやってるって。それでそのゲームにはルールがあって、第三者の干渉があったらその時点で終わりなんだよね。そうでしょう? 渚くん」
「……涼介のやつ、余計なコト喋りやがって」
 眞姫に聞こえないくらいの声でそう呟き、渚は小さく舌打ちした。
 それから、その表情と声の雰囲気をガラリと変える。
 そして、甘えるような上目遣いを眞姫に向けて言った。
「清家先輩のおっしゃる通り、これはゲームなんですけど……本当は芝草先輩たち“能力者”と戦うなんて、僕は嫌なんです。でも、僕は“邪者”だから」
 わざとらしく目に涙を溜めて俯く渚に、眞姫は優しく微笑む。
「渚くん、もうこのゲームは終わりなんだよね。この“結界”、解除してくれないかな」
「…………」
 准は手のひらを返したように態度を変えた渚を見て、眉を顰めている。
 だが眞姫がいる以上、下手な言動は控えた方がいい。
 しかも渚は眞姫に対して好意を持っているため、彼女に危害を加えることはない。
 そう判断した准は、黙って渚の様子をうかがった。
 渚は赤を帯びていた瞳を漆黒へと戻して眞姫に向けた後、小さくコクンと頷く。
 そして、ふっと右手を掲げた。
 それと同時に、賑やかな繁華街の雑踏が戻ってくる。
 渚は可愛らしい顔に笑顔を宿すと、それからペコリと頭を下げた。
「清家先輩、来てくださってありがとうございました。先輩が来てくれなかったら、僕は“邪者”として芝草先輩と戦わないといけなかったから……本当にありがとうございました。じゃあ僕、これで失礼します」
「渚くん……」
 すっかり渚の猫かぶりに騙されている眞姫は、彼の言葉に複雑な表情をする。
 それから、言った。
「渚くん、私は渚くんが“邪者”でもそんなことは関係ないよ。それに、渚くんたち“邪者”も准くんたち“能力者”も、私にとっては大切なお友達だから……そんなみんなが敵として戦うのは、私も嫌だな……」
「清家先輩……」
 渚はふっと振り返り、眞姫を見つめる。
 それからもう一度ペコリとお辞儀をし、繁華街のメインストリートの方向に歩いていった。
 准は渚の姿が見えなくなってから、眞姫に視線を移す。
 そして、心配そうな表情で彼女を見つめた。
「来てくれてありがとう、姫。でも、あまり無理はしないでね」
「うん。心配してくれてありがとう、准くん」
 自分に向けられる彼女の笑顔を見て、准は心が癒されるような感覚をおぼえる。
 そして目の前の眞姫を何があっても守ろうと、そう強く思ったのだった。
 知的な顔に穏やかな笑みを宿し、准はそっと彼女の頭に手を添える。
 一生懸命いじましく頑張る彼女を抱きしめたい気持ちを抑え、真っ赤な夕陽に照らされる彼女の髪を優しく撫でた。
 それから別の場所に視線を移し、ふとその表情を変えて呟いた。
「“邪者”のゲームか……ほかのみんなのところにも、急がないとね」
 “邪気”によって形成されている“結界”は、今この近くでふたつ感じる。
 眞姫はそんな准に、思い出したように目を向けた。
「あっちの“結界”には、祥ちゃんが向かっているわ。だから、こっちの“結界”に……」
 眞姫が准にそう言いかけた……ちょうど、その時。
「……!?」
「!」
 眞姫と准は、ハッと同時に顔を上げる。
 そして、険しい表情を浮かべた。
 さらにもうひとつ――“邪気”によって作られた“結界”の存在を感じたからである。
「この“邪気”は……」
 眞姫は今まさに形成された“結界”から感じる“邪気”に、見覚えがあった。
 この桁外れに大きな“邪気”は、間違いなくあの人物のもの。
 ――鳴海先生の親友の、杜木慎一郎のものである。
「准くん……私、次はあの“結界”に向かうよ」
 眞姫はそう言って、杜木が張ったと思われる“結界”に視線を向けて歩き出した。
「姫っ!」
 准はそんな眞姫の腕を、咄嗟に掴む。
 そして、大きく首を振った。
「姫、あの“結界”から感じる“邪気”は強大だ、そんな危険なところに姫を行かせるなんてできないよ」
「准くん……」
 腕を掴んでいる准を振り返り、眞姫は真っ直ぐに彼を見つめる。
「准くん、心配してくれて嬉しいよ。でもね、私は私にできることをしたいんだ」
「姫……」
 准はそんな眞姫の大きな瞳に宿っている意思の強さを感じ、思わず言葉を切った。
 そして眞姫から手を離すと、優しい笑顔を彼女に向ける。
 それから、ぽんっと彼女の肩を叩いて言ったのだった。
「分かったよ、姫。でも、ひとりで行かせるわけにはいかない。僕も一緒に行って、姫のことを守る。それでいいよね?」
 眞姫はその言葉に、栗色の髪を揺らして大きく頷いた。
 そして准の手をそっと取り、にっこりと微笑みを向けて言ったのだった。
「うん。行こう、准くん」