次の日――6月11日・土曜日。
 眞姫は家が近くの健人と駅で落ち合い、彼に連れられてある場所へとやってきていた。
 そこは、都内某所の高級マンション。
 健人は慣れたようにエレベーターに乗り込むと、17階のボタンを押した。
 それと同時に、ゆっくりとエレベーターが上へと上がり始める。
 昨日“邪者”のゲームが終わった後、鳴海先生は眞姫と少年たちにこう言った。
『明日土曜日の正午、高校入学前訓練に使っていた例の場所に全員来い。臨時ミーティングを行う』
 眞姫はその場所を知らないため、健人と一緒にその例の場所とやらに出向いたわけであるが。
 ブラウンの瞳をぱちくりさせ、眞姫は周囲を見回す。
 そして、隣にいる健人に訊いた。
「高校入学前に訓練に使っていた場所って、ここなの?」
 ここは、訓練とは程遠そうな高級マンションである。
 こんな場所で、先生と彼らは訓練をしていたというのだろうか。
 眞姫はエレベーターから見える都心の景色を見つめながら、首を捻る。
 健人はそんな眞姫の問いに、小さく頷いて答えた。
「ああ。このマンションの17階は、元々誰も住んでいないんだ。勉強部屋やトレーニングルームがある、先生が用意した訓練のためだけの階なんだよ。俺たちは高校に入る前、ここで訓練や受験勉強させられていたんだ」
「訓練のためだけの階?」
 健人の言葉を聞いて、眞姫はきょとんとする。
 こんな高級マンションのワンフロアを、訓練のために使っているなんて。
 眞姫は数度瞬きをした後、ふと健人に視線を戻す。
 そして彼の表情を見て、小首を傾げた。
「どうしたの、健人?」
「いや……何でもないよ、姫」
 そう言いつつ、健人は大きく溜め息をついた。
 眞姫と一緒ということは嬉しい健人だったが、彼女と遊ぶ約束が、突然臨時ミーティングへと変わってしまった。
 しかもこの場所に来ると、まるで地獄のようだった高校入学前の強化訓練のことをいやでも思い出してしまうのだった。
 鳴海先生は“能力者”の少年たちに対して、高校入学前から訓練を施していたのだが。
 その内容は、“能力者”としての戦い方の基本から、高校入試の受験勉強までと幅広かった。
 今でも十分に厳しい鳴海先生だが、高校入学前の強化訓練での彼は、文字通り悪魔のようにスパルタで。
 まだ“気”を使い慣れてもいない少年たちを、容赦なく鍛えていたのだった。
 その上に、受験勉強のための課題の量も半端ではなくて。
 少年たちはいろいろな意味で、何度先生に殺されると思ったか分からないほどだった。
 そんな事情を知らない眞姫は表情の冴えない健人に不思議そうな顔を向けた後、栗色の髪をそっとかき上げる。
 そして、17階に到着したエレベーターを降りた。
 健人はちらりと時計を見てから眞姫を伴い、ミーティングに使われる一番奥の部屋のドアを開ける。
 眞姫は遠慮気味に中に入ると、もの珍しそうにきょろきょろと周囲を見回した。
 その時だった。
「あ、姫に健人。そういえば、姫はここに来るの初めてなんだよね?」
「これはこれは、愛しのお姫様っ。今日も姫は可愛いなぁ。ここにくるとめっちゃブルーやけど、姫がいるだけで随分と気持ちが違うわ……ささ、ハンサムくんの隣へどうぞっ」
「こんにちは、僕のプリンセス。どうやら今日も王子は、お姫様の美しさの魔法にいとも簡単にかかってしまったようだよ」
 脱いだ靴を揃えて部屋の奥へ足を運んだ眞姫に、先に来ていた少年たちは口々にそう言った。
 眞姫はそんな少年たちに、にっこりと微笑みを向ける。
「あ、こんにちは、みんな。早かったんだね」
「1分でも遅れたら、鳴海先生に容赦なくぶっ飛ばされるからなぁ。遅刻する度胸があるのは、たっくんくらいやで」
「そういえば、相変わらず拓巳のやつはまだなのか?」
 健人のその言葉に、准は大きく嘆息する。
「遅れたらまたひどい目に合うよって、昨日散々言ったんだけどね。言っても全然懲りないから」
「あの悪魔にあれだけ反抗できるのは、拓巳だけだからね。ある意味、王子はその勇気に感心しているよ」
 詩音は色素の薄い綺麗な瞳を細め、普段通りの優雅な笑みを絶やさずそう口を開く。
 そんな少年たちをぐるりと見回した後、眞姫は部屋に備え付けてある時計を見た。
 鳴海先生の指定の時間まで、あと十数分余りである。
 祥太郎はニッと悪戯っぽく笑い、楽しそうに言った。
「んじゃ、久々に予想するか? 拓巳が遅刻するかどうか」
 祥太郎の言葉を聞いた残りの3人は、迷うことなく答える。
「拓巳のことだから、遅刻するに決まってるよ」
「遅刻した上に、鳴海にぶっ飛ばされるだろ」
「そうだね、王子も騎士は間に合わないと思うな」
 少年たちの答えに、祥太郎はわははっと笑う。
「みんな遅れるに賭けるんやったら、賭けにならんわ。ま、俺も余裕で遅れると思うけどな」
「拓巳、大丈夫かな……」
 心配そうにぽつりと呟いて、眞姫は大きな瞳を入り口へと向けた。
 祥太郎は眞姫の肩をポンッと叩き、そしてハンサムな顔に笑顔を浮かべる。
「ま、たっくんは先生にボコられ慣れとるからな。あ、お姫様、何か飲み物いるか? 何故か飲み物とかお菓子はいつも完備なんや、ここ」
 そんな祥太郎の言葉に答えたのは、眞姫ではなく詩音であった。
「ありがとう、騎士。王子は、王子お気に入りのジャスミンティーでいいよ」
「それはこの騎士に、ジャスミンティーを淹れろと仰ってるんでしょーか、王子様」
 自分に王子スマイルを向けている詩音に、祥太郎ははあっと嘆息してそう言った。
 椅子に座った健人は、ブルーアイを細めて何気に口を開く。
「祥太郎、俺も王子お気に入りのジャスミンティーでいいよ」
「そうだね、僕も王子お気に入りのジャスミンティーでいいから、祥太郎」
 わざとらしいくらい穏やかな笑顔を浮かべ、准もそう続ける。
 祥太郎は苦笑しつつも、素直に奥のキッチンへと足を向けた。
「お姫様も、王子お気に入りのジャスミンティーでええか? ていうかお姫様には喜んで尽くすけどな、こういう役回りって俺のキャラちゃうやろ」
「あ、ごめんね、祥ちゃん。私も手伝おうか?」
 申し訳なさそうに、眞姫はそう言ってキッチンに行こうとする。
 だがそんな眞姫ににっこりと微笑み、すかさず准は言った。
「ううん、大丈夫だよ、姫。姫は座ってて」
「あのー、部長。お言葉ですが、それって俺が言うコトと違うか?」
 水を入れたポットを火にかけながらも、祥太郎はちらりと准を見る。
 健人は悪びれもなく、そんな祥太郎に追い討ちをかけるように口を開いた。
「祥太郎、早く淹れないと先生が来る時間になるぞ」
「あのなぁ、美少年……ていうかこれって、ハンサムに与えられた何かの試練か?」
 そう言いながらも祥太郎は、全員分のティーカップを食器棚から出す。
 そして律儀にお湯を注いでカップを温めながら、もう一度嘆息した。
 詩音は楽しそうに優雅な笑みを美形の顔に宿すと、相変わらずマイペースに微笑む。
「ふふ、楽しみだな。王子とお姫様の、愛のティータイムだね」
「王子とお姫様のって、騎士は全く無視かい、王子様っ。って、一応たっくんの分も淹れとくかな……」
 しっかり詩音にツッこんだ後、祥太郎はもうひとつティーカップを食器棚から出したのだった。
 ――それから、数分後。
 祥太郎の淹れた王子お気に入りのジャスミンティーを飲みながら、眞姫は再び時計に目を移す。
 時計の針は、もうすぐ先生の指定した時間・正午を刺そうとしていた。
 だが、まだ拓巳が現れる気配はなさそうである。
 そして眞姫がそう思った、その時。
 詩音はティーカップをソーサーに置いてから、ふっとブラウンの瞳を細める。
「やっぱり、拓巳は間に合わなかったようだね」
 その言葉と、同時だった。
 時計の針が正午ちょうどをさし、部屋に電子音が鳴り響く。
 そして。
 今まで和やかな雰囲気だった空気が、一変した。
 ガチャッとドアが開いたと思うと、鳴海先生が部屋に入ってきたのだった。
 途端に少年たちの表情が引き締まり、ピリピリとした空気が流れる。
 鳴海先生はその場にいる全員を見回した後、威圧的な声で言った。
「拓巳はどうした?」
「拓巳は、まだ来てないんですけど……」
 先生の問いに、准はそう答える。
 鳴海先生は小さく溜め息をついた後、そしてふと振り返った。
 それと同時に、バタバタと足音が聞こえる。
 それから、勢いよくドアが開かれたのだった。
 僅かに時間に遅れ、拓巳がやってきたのである。
 そして――その、次の瞬間。
「!」
 部屋の中にいる少年たちは、ハッと顔を上げた。
 それと同時に、鳴海先生の掌から眩い光が放たれる。
「げっ! ていうか……そういつも、くらってたまるかよっ!」
 部屋に入った途端襲ってきた大きな“気”の衝撃に瞳を見開きながらも、拓巳は素早くその手に“気”を漲らせる。
 それから、唸りを上げる先生の衝撃に、瞬時に集結させた光を放って応戦した。
 そして、カアッと目を覆うほどの光が部屋を包み込み、ふたつの“気”の威力は消滅する。
 それを確認し、ふうっと息を整えてから拓巳は構えを解いた。
「へっ、そう毎回くらってたまるかって……っ!?」
 だが、次の瞬間。
 拓巳はバッと顔を上げ、表情を変える。
 拓巳が油断した、その一瞬だった。
 鳴海先生の掌から、すかさず第二波が放たれたのだった。
「なっ……くそっ!!」
 咄嗟に腕を十字に組み、その衝撃を受け止めた拓巳だったが。
 その威力の大きさに堪えられず、身体を吹き飛ばされる。
 そして、ガンッと思いきりドアに身体を打ちつけたのだった。
「つっ……何すんだよっ!」
「時間厳守だと、いつも言っているのが分からないのか? さっさと席に着け」
 鋭い視線を向ける拓巳の様子にもお構いなしで、鳴海先生はそう言い放つ。
 拓巳は気に食わない表情を浮かべつつも、渋々立ち上がって椅子に座った。
 隣に座っていた健人は、ちらりとブルーアイをそんな拓巳に向ける。
 それから、呆れたように言った。
「本当におまえって、昔から学習能力っていうか進歩ないな」
「うるせーなっ、おまえに言われたくねーよ」
 じろっと健人を見てから、拓巳は面白くなさそうに頬杖をつく。
 祥太郎はそんな拓巳の様子に笑い、訊いた。
「まーまー、センセにボコられるのはいつもやないか。あ、たっくんも、王子お気に入りのジャスミンティーいるか?」
「いつもって言うなっ。ていうか、ジャスミンティー? いらねーよ。ダッシュで来て暑いくらいだってのに、そんなの飲んでられるかよ。むしろ、炭酸系が飲みたいっての」
「たっくんってば、相変わらず亭主関白なんやからなぁ。って、炭酸系って言ったらコーラとかか?」
 うーんと考える仕草をして、祥太郎は拓巳のティーカップを几帳面にキッチンに片付けに行く。
 詩音は優雅にジャスミンティーをひとくち飲んだ後、拓巳に目を移した。
「まぁ、そう言わずに。王子お気に入りのジャスミンティーは、とても美味しいよ?」
「おまえにとってはそうだろーな、王子お気に入りなんだろ?」
 詩音にそう答えた後、拓巳は漆黒の前髪をかき上げる。
 眞姫は目の前で起こった状況にきょとんとしながらも、そんな拓巳に声をかけた。
「こんにちは、拓巳」
「おう、姫っ。やっぱり姫がいると、何か違うよなっ」
「ていうか、あと5分早く家出てたら間に合ってたんじゃない? 本当に懲りないよね、拓巳」
 眞姫に声をかけられて嬉しそうに笑顔を宿す拓巳に、冷静に准はそうツッこむ。
 鳴海先生はぐるりと全員を見回した後、深々と嘆息した。
「いい加減、その口を噤め。臨時ミーティングを始める」
「そういえば臨時ミーティングって、一体何するんや?」
 律儀に拓巳の要望通り彼の飲み物を持ってきて手渡し、祥太郎は先生に訊いた。
「サンキュー、祥太郎。ていうか、何でわざわざ学校が休みの時に呼び出すんだよっ」
 祥太郎に礼を言った後、拓巳は再び先生に鋭い視線を投げる。
 鳴海先生は、相変わらず表情を変えずに言った。
「学校が始まった月曜では遅すぎる。昨日の“邪者”のゲームについて、おまえらが詳細に覚えているうちに報告を聞いておく必要があると判断したからだ。誰一人“邪者”を返り討ちにできなかったその言い訳を、じっくり聞いてやると言っているんだ」
「何だと!? そういうおまえだって、あの杜木ってヤツと対峙して、何もしてないじゃねーかよっ」
「気持ちは分かるけど、ちょっとは落ち着きなよ、拓巳」
 ムッとした表情を浮かべて先生に突っかかる拓巳を、そう准は宥める。
 先生は少年たちから視線を外すと、切れ長の瞳を眞姫に向けた。
 眞姫は自分を移すブラウンの瞳に、一瞬ドキッとしてしまう。
「それに今日は、おまえらに話しておきたいことがある。杜木たち“邪者”の、本当の目的をだ」
「本当の目的?」
 健人は先生の言葉に、ブルーアイを細めてそう訊き返した。
 先生はふっと一息つくと、眞姫にこう質問したのだった。
「我々“能力者”と“邪者”が何故対立しているのか、その理由は分かるな? 清家」
「え? あ、はい。“能力者”の使命は、人間に危害を加える“邪”を退治することですよね。でも“邪者”は、そんな“邪”を身体に取り入れた人たちで。だから、退治すべき“邪”を取り込んだ“邪者”は“能力者”の敵だし、“邪者”にとっては“邪”を退治する“能力者”が敵なわけなんですよね?」
 一生懸命頭の中で整理をしながら、眞姫は答える。
 先生は、そんな眞姫の的確な回答に頷く。
 そして、話を続けた。
「“能力者”と“邪者”の基本的な関係は、今清家が言った通りだ。そして“浄化の巫女姫”は、我々“能力者”の使用する“正の力”が桁違いに大きく、特殊な能力を使える者のことだが……何故自分たちにとって脅威になる“浄化の巫女姫”の能力覚醒を、杜木たちが必要以上に促しているのか。それには、理由がある。清家、杜木に言われたことを話せ」
 再びそう振られ、眞姫は以前杜木と話をした時のことを思い出す。
 深く神秘的な漆黒の瞳と、物腰柔らかな優しい表情。
 そんな杜木のことを思い出しながら眞姫は顔を上げ、そして口を開いた。
「あの杜木っていう人は、私にこう言っていました。私の身体の中には、大きな“正の力”だけでなく“負の力”も宿っているのだと。だから“邪”を取り込んで、“邪者”のようにその“負の力”を蘇らせてみないかと……」
 鳴海先生は眞姫の言葉を聞いた後、ふうっと小さく嘆息する。
 それから、言った。
「おまえたちも知っているように、“邪者”の“邪気”の大きさは、その者が取り込んだ“邪”の力によって決まる。取り込んだ“邪”の力が大きいほど、その“邪者”の力も強いものになるというわけだ。そして、そんな“邪”の中でも……特別な血を持つ者のみ召還できると言われている、強大な“邪”の存在がある」
「特別な血を持つ者のみ召還できる、“邪”の存在?」
 少年たちも初めて聞く話らしく、先生の言葉に表情を変える。
 先生は改めて眞姫にちらりと目を向けると、続けた。
「そうだ。その強大な“邪”は、“浄化の巫女姫”の神聖な血をもってのみ、召還できると言われている。“正の力”と“負の力”は表裏一体であり、“浄化の巫女姫”が能力覚醒を果たした時、その血に導かれて強大な“邪”も目を覚ますと言われている。杜木たちが清家の能力覚醒を急いでいるのは、その“邪”を召還して清家に取り込ませ、清家の身体に眠る強大な“負の力”を蘇らせようとしているというわけだ。本来、“浄化の巫女姫”に課せられた使命は、その目を覚ました強大な“邪”を封印することにある。だがそれを封印せずに、清家の身体に取り込ませようとしているのだ」
「“浄化の巫女姫”の神聖な血を持つ姫に、姫しか召還できない強大な“邪”を取り込ませようとしている……そういうわけか」
 先生の話を今まで黙って聞いていた健人は、そう呟く。
 准は大きく首を振り、クッと唇を噛んだ。
「強大な“邪”を身体に取り込むなんて危険なこと、姫には絶対させられないよ」
「“浄化の巫女姫”は元々、大きな“正の力”を宿す存在だ。“負の力”はそんな“正の力”と反発を起こす。よって本来は身体の中に眠っている“負の力”だが、“邪者”は“邪”の力を借りて、それを使えるようにする。普通の“邪者”になる際も、“邪”を取り込むためには激しい苦痛を伴う。それが“能力者”だった者や、まして“浄化の巫女姫”となれば、その苦痛はさらに何倍もの大きなものになるだろう。だが、その反発から生じる痛みに耐えて“邪”を取り込むことができた者は、普通の“邪者”よりもさらに強い力を得ることができる。元“能力者”である杜木が、“邪者”の中でも特に強大な力を持つ存在である理由はそこにある。そして、それが“浄化の巫女姫”となれば、苦痛も大きいが克服すればその力は計り知れないものになるというわけだ」
 眞姫はそんな先生の言葉に、何かを考えるように俯く。
 自分の身体の中に、そんな神聖な血が流れているなんて。
 そして自分の秘める“負の力”を、杜木たち“邪者”は欲しているのだ。
 事実、杜木自身も眞姫にこう言っていた。
『“正の力”だけでなく君の中に眠る“負の力”も蘇らせ、その可能性をより大きなものにしたいと私は思っているんだよ』
 だが、眞姫には分からなかった。
 親友や恋人と敵同士になってまで、“浄化の巫女姫”である自分の“負の力”を蘇らせることに、一体何の意味があるのだろうか。
 そう思いつつ、眞姫は杜木が自分に言っていたこの言葉を思い出していた。
『私が“邪者”を選んだのは、“能力者”として自分がやってきたことに疑問を感じたからだよ』
 疑問に感じた理由を、杜木は話してはくれなかった。
 鳴海先生に聞けば分かるかもしれないとも思ったのだが、先生は杜木のことをあまり話そうとはしない。
 いくら精神面も力も人より強い鳴海先生とはいえ、やはり親友が敵の統率者だという現実は辛いだろう。
 決してそういう素振りは見せず自分の使命を全うしようとしている鳴海先生だが、眞姫はそう思うと、なかなか杜木のことを先生に訊くことができないのだ。
 鳴海先生はそこまで話をして、ふっと一息つく。
 そしてすぐに決意に満ちた切れ長の瞳を全員に向け、こう言ったのだった。
「分かっていると思うが、我々“能力者”の使命は“邪”を退治することだ。よって、杜木たちのしようとしていることを決して許すわけにはいかない。そのことを普段から強く肝に命じ、そして“邪者”の思惑を打破する。いいな」
 先生の言葉に、少年たちはそれぞれ無言で大きく頷く。
 眞姫はそんな彼らを、複雑な心境で見つめた。
 本当に自分には、そんな神聖な血が流れているのだろうか。
 そう疑問に思いつつも、近くには信頼できる仲間もいるし、運命を受け入れる覚悟はすでにできている。
 だがそんな仲間はもちろん、“邪者”でさえも、決して傷ついて欲しくはない。
 そう考えると、心が痛むのだった。
 鳴海先生はそんな様子の眞姫を見つめ、それから彼女に言った。
「清家。おまえがどのような道を選ぶかは、おまえの自由だ。ただ我々“能力者”は、“能力者”としての使命に従って行動をする。そのことを、おまえも心に留めておいてくれ」
 眞姫はそんな先生の言葉に、小さく頷く。
 先生や少年たちにとって“邪者”との戦いは、“能力者”の使命を全うするために避けられないものなのであると。
 そう、鳴海先生は言っているのだ。
 眞姫は頷いたものの、再び俯いてしまう。
 鳴海先生はそれ以上そんな眞姫には何も言わず、黙って彼女に視線を向けていた。
 そして少年たちも、複雑な表情を浮かべる眞姫の姿をじっと見守っていたのだった。