――4月13日・水曜日。
「…………」
 2年Aクラスの教室で怪訝な顔をしながら、健人は自分の周囲を見回した。
 そして、はあっと小さく嘆息する。
 新学期が始まって数日が経ち、通常通り授業も始まった。
 そして今は午前中の授業が終わった、昼休みである。
 健人はパンをひとくち口に運んで、それからちらりと青い瞳をある少年に向けた。
 そんな視線の先には。
「1年の時は確かGクラスやったよな? ん? 何で知ってるかって、このハンサムくんのチェックを甘く見たらあかんでっ」
 周囲を取り囲む女の子たちに、愛想良く笑顔を振りまく少年。
 女の子だけでなく男の友達も多い祥太郎の周りは、大勢の人で賑やかである。
 祥太郎の性格をよく知っている健人にとって、そんな目の前の状況は何も不思議なことではない。
 ……だが。
 何で自分までそんな輪の中にいなければいけないのか、健人にとってそれが腑に落ちないのであった。
 健人は無愛想なわけではないのだが、社交的というわけでもない。
 そんな性格上、輪の中心にいることに慣れていないところがあった。
 だが、何故か無理やり祥太郎に引っ張られ、健人は今大勢の輪の真っ只中で昼食を取っているのである。
 健人はもう一度祥太郎に目を向けた。
 そんな健人の視線に気がつき、ふと祥太郎は彼の隣に移動する。
「どうしたんや、美少年くん? 健人は照れ屋さんやからなぁ、愛想良くせなあかんでっ。俺なんかもう内気やから、新しいクラスに馴染めるか不安で胸いっぱいやしっ」
「祥太郎、おまえが内気なら普通の人はみんな人間不信だぞ」
 はあっと溜め息をつく健人に、祥太郎はわははっと笑う。
 それから健人の肩をバシバシ叩き、周囲に人懐っこい笑顔を向けて続けた。
「おおっ、ツッこまれたっ。あ、健人と俺で夫婦漫才ってのも面白いと思わんか?」
「微塵も思わないし、むしろひとりでやってくれ。ていうか、まず夫婦じゃないし」
 そうツッコミながらも、健人は楽しそうに祥太郎の言葉を聞いて笑っている周囲の生徒たちを見る。 
 一見軽口を叩いているだけのように見える祥太郎であるが、きちんと分け隔てなくその場にいる全員に話しかけていた。
 自分には到底できない彼のそんな行動に、健人はぼそっと呟く。
「おまえって、ある意味すごいよな」
「すごいって、何がや? あ、いくら健人が美少年やからって、俺に惚れたらあかんで?」
「……ひとりで言ってろ。俺を巻き込むな」
 少しでも感心した自分に後悔しつつ、健人はジュースをひとくち飲んだ。
 祥太郎はニッと笑みを浮かべ、自分の椅子をガタッと健人の隣に寄せる。
 それから、彼にだけ聞こえるくらいの声で言ったのだった。
「健人と仲良うなりたいヤツはたくさんおるんやで? 姫のことは俺に任せて、美少年は万人に尽くさな」
「そういう魂胆か、祥太郎。ていうか、昼食くらい静かに食べさせろ」
 じろっと青い瞳を向ける健人に、祥太郎は笑う。
 そして、続けたのだった。
「何や不機嫌やなぁ、今日はお姫様と一緒に帰れんからか? 朝いつも一緒なんやから、そう贅沢言うなや。羨ましすぎやで、俺も姫とラブラブ登校したいわ」
「…………」
 その言葉を聞いて、健人は再び嘆息する。
 それから金色に近いブラウンの髪を無造作にかき上げたのだった。
 ――同じ頃、2年Bクラス。
 准はじろっと目の前の拓巳に視線を向け、深々と溜め息をついた。
「あのね、拓巳。数学で当てられた時、僕のノートあてにするのやめてよね」
「んな減るもんじゃないしよ、ケチケチするなよな」
 バクバクと昼食を口にしながら、拓巳は准を見る。
 そんな拓巳に、准は眉を顰めて続けた。
「減るもんじゃないって言うけどね、思いっきり鳴海先生、こっち見て怪訝な顔してたし。僕が拓巳に甘いって怒られるんだからね」
「鳴海のヤツ、目ざといからな。数学だけでも冗談じゃねぇのに、何であいつが担任なんだよ!?」
 怪訝な顔をしてそう言う拓巳を見て、一緒に昼食を取っている梨華は笑う。
「小椋くんって、本当によく数学当てられるわよねぇ。先生のお気に入りじゃない、ある意味」
「うるせーよ。それにしてもあいつ、何で俺ばっかり当てやがるんだよ、ったく」
 はあっと嘆息する拓巳に、眞姫はにっこりと微笑む。
「でも、今日も当てられてたけどちゃんと答えられてたじゃない、拓巳」
「いや、あれは僕のノート勝手に見て答えただけなんだよ、姫。この僕の許可なしに勝手なことしてたら、そのうち痛い目に合うよ?」
「芝草くん、目が全然笑ってないし。それに芝草くんだったら本当に痛い目に合わせそう、しかもさり気なく」
 そんな梨華の言葉に満面の笑顔を作って、准はわざとらしく大きく首を傾げた。
「え? そんなことないよ、立花さん。ちょっとした軽い冗談だよ、たぶん」
「たぶんかよっ。ま、そういうことでこれからも当てられた時は頼むぜ」
「何で勝手に話まとめてるの? 拓巳」
 はあっと溜め息をつく准に、眞姫は視線を向ける。
 そして、楽しそうに言ったのだった。
「准くんと拓巳って長い付き合いなだけあって、本当にすごく仲がいいよね」
「……姫って、どこかずれてるよね」
 ぽつんとそう准が呟いた、その時。
 ふと視線を教室の入り口に向けた彼は、小さく首を傾げる。
 それから眞姫に目を移し、言った。
「ねぇ、姫。あそこ、教室の入り口できょろきょろしてるのって……」
「え? あ……」
 准の言葉を聞いて顔を上げた眞姫は、瞳をぱちくりさせる。
 それから立ち上がり、おもむろに廊下に出る。
 そして、その場にいた彼に話しかけたのだった。
「こんにちは、どうしたの?」
「あっ、清家先輩っ。こんにちは」
 眞姫に話しかけられ、その少年・渚はパッと嬉しそうな表情を浮かべる。
 それから、愛らしい笑顔を眞姫に向けて続けた。
「先輩に改めて入学式の時のお礼が言いたくて、僕。ありがとうございます、先輩」
「そんな、お礼なんて。少しは学校にも慣れた?」
「いいえ、それが……ここに来るまでも、すっごく迷っちゃって。気がついたら図書館に着いちゃいました」
 恥ずかしそうに俯く渚に、眞姫は優しく笑う。
「まだ入学して1週間も経ってないから仕方ないよ。それにしても図書館だなんて、随分と遠くまで行っちゃったんだね」
 くすくすと笑う眞姫の顔に見惚れて頬を少し赤らめた後、渚は改めてぺこりと頭を下げた。
「はい、恥ずかしいです……でも、本当にありがとうございました。入学式の時に清家先輩に見つけてもらえて、すごく嬉しかったです」
「どう致しまして。それよりも、1年の教室まで帰れる?」
「えっと、あまり自信はないんですけど……」
 ちらりと上目遣いで眞姫を見て、渚は小首を傾げる。
 眞姫は教室の時計に視線を向けてから、そして言った。
「まだ時間もあるし、送って行こうか? また迷ったら大変だしね」
「えっ、そんな先輩にご迷惑のかかること、いいんですか?」
「うん、私は大丈夫。校内で相原くんが迷子になった方が大変でしょ?」
 にっこりとそう微笑み、眞姫はゆっくりと歩き出す。
 渚は嬉しそうな顔をした後、眞姫に並んだ。
 そして栗色の髪を揺らしている眞姫の横顔を見て、言った。
「先輩、僕のことは渚って呼んでください。それにしても、本当に送ってもらってすみません」
「それじゃあ今度から、渚くんって呼ぶね。まだ次の授業まで余裕ある時間だし、気にしないで」
 憧れの眞姫に名前で呼ばれ、渚はつぶらな瞳を満足そうに細める。
 それからジャニーズ系の可愛らしい顔に微笑みを浮かべたのだった。
「さっきのあいつ、誰だ? 1年っぽいけど」
「何かすっごい可愛い顔してたよね、目とかくりくりしてて」
 2年Bクラスで、拓巳と梨華は同時に准に視線を向けた。
 准は二人を交互に見て、答える。
「彼は入学式の時に新入生の挨拶をした子だよ。えっと、1年Dクラスの相原渚くんだったかな」
「新入生代表? じゃあ、入試トップだったってことじゃない! へーえっ」
「新入生代表って、あの校舎で迷子になったとか言ってたヤツか?」
 感心した様子の梨華と首を傾げる拓巳を見て、准は頷く。
 それから梨華は、拓巳と准に交互に目を向けてふっと笑った。
「これは強敵が現れたんじゃない? あの渚くんって子の顔、絶対眞姫のこと好きって感じだったし。それに女って、母性本能くすぐられると弱いところあるからねぇっ。顔もジャニーズ系で成績もトップ、なかなかあんな可愛い子いないからね」
「おまえって、本当にそーいう話好きだよな、立花」
「ま、たっくんほど分かりやすい人はいないけどねーぇっ」
「おまえまでたっくんって言うなっ。ったくよ、祥太郎の悪い影響受けてんじゃねーぞ!?」
 じろっと自分を見る拓巳にくすくす笑った後、梨華は准に目を向ける。
 准はそんな梨華に、にっこりと作った笑顔を返して言ったのだった。
「姫のことは誰よりもよく分かってるから、大丈夫だよ」




 ――その日の放課後。
 帰りのホームルームが終わり、准と拓巳のふたりは階段を駆け上がっていた。
「まったくっ、何で僕まで走る羽目になったのかさっぱり分からないよっ」
「仕方ねぇだろっ、英語の課題って今日の放課後が提出期限なんだからなっ」
 そんな彼の言葉を聞いて、准はじろっと拓巳に視線を向ける。
 それから、呆れたように言った。
「今日の放課後提出の課題が、放課後になった時点でもまだ真っ白だってことがおかしいって思わないの!? しかも何で僕が、拓巳の英語の課題に付き合わなきゃいけないのかって言ってるんだよ」
「るせーな、俺だけじゃなくて結構ほかのヤツらだって一生懸命やってたじゃねーかよ」
 漆黒の瞳を向け、ぼそっと拓巳はそう呟いた。
 はあっと嘆息し、准は腕時計を見てから続ける。
「あのね、ほかの人はいいんだよ。でも僕たちは、今から部活の臨時ミーティングがあるだろう!? それが分かってるのにこの有様なのが、信じられないよ」
 今日提出の英語の課題をやっていなかった拓巳に、准は無理やり付き合わされた。
 普段だったら手伝ったりしない准だったが、この日は勝手が違っていた。
 この日映画研究部のメンバーである少年たちは、顧問の鳴海先生に呼び出されていたのである。
 時間に異常に厳しい鳴海先生のことを知っているだけに、准も渋々拓巳の課題に協力したのだった。
 准の手伝いの甲斐もあり、何とか課題を部活開始時間までに終わらせて無事職員室に提出したふたりは、部室に急いで向かっている途中であった。
 別館の階段の踊り場に差しかかった拓巳は、ふと顔を上げる。
 それから、大きな瞳を何度か瞬きさせて言った。
「おっ、詩音じゃねぇかよ。おまえも部活に向かう途中か?」
 その言葉に足を止め、詩音は相変わらず優雅な微笑みを浮かべる。
「ご機嫌いかがかな、騎士たち」
「急がなくても大丈夫なの? もうすぐ部活の時間だろう?」
 心配そうな准ににっこりと笑って、詩音は色素の薄いブラウンの瞳を細めた。
「大丈夫だよ。このペースで行けば、先生よりも5分早く部室に到着するよ」
「何だよ、余裕じゃねーかよ」
「拓巳がちゃんと課題やってきてたら、もっと余裕だったんだけどね」
 ふうっとわざとらしく息をつき、准は歩き出した詩音に並んで歩調を合わせる。
 准の言葉にバツの悪そうな顔をして彼らとともに歩きながらも、拓巳は再び口を開いた。
「ていうか鳴海のヤツ、どういうつもりだ? 姫には内緒で、俺らだけ集めて臨時ミーティングなんてよ」
「さあ……何かあったのかな?」
 怪訝な顔をする拓巳を見て、准もふと首を傾げる。
 詩音はそんなふたりの様子に何も言わず、いつも通りの優雅な表情を浮かべていた。
 そしてしばらくして、3人は視聴覚教室に到着する。
 祥太郎と健人のふたりは、すでに来ていた。
「おっ、3人仲良うお出ましやな」
「遅かったな、おまえら」
 健人の言葉に、准は深々と溜め息をつく。
「まったく、拓巳のせいだよ。おかげで僕まで走らされたし」
「悪かったって言ってるだろ? ま、時間には間に合ったからよかったじゃねぇかよ」
「何や、またたっくん何かやらかしたんか? 本当にいくらセンセにぶっ飛ばされても懲りんのやからなぁ」
「悪魔に屈しない騎士の態度、さすがの王子にも真似はできないな」
 詩音はそう話す少年たちを見て、楽しそうに瞳を細める。
 そして。
 その、次の瞬間だった。
「…………」
 急にふっと微妙に表情を変化させて、詩音は顔を上げる。
 そんな様子に気がついた健人は、詩音に青い瞳を向けた。
「詩音? どうかしたのか?」
 詩音が健人の問いに答えようとした、その時。
 トントン、と視聴覚教室のドアをノックする音が聞こえた。
 少年たちは顔を見合わせ、そして准がそのドアを開けようと一歩近づく。
 だが……彼がドアに手をかける、その前に。
「失礼しまーす、映画研究部の部室ってここですか?」
 ガチャッとおもむろにドアが開き、ずかずかと入ってきたその少年はそう言った。
 その言葉に、映研部員の面々は驚いた表情で突然現れた彼を見る。
 映画研究部は学校の部活のひとつであることは確かだが、その存在が公にされているわけではない。
 言わずもがな、それは映画研究部であると同時に“能力者”の集まりだからである。
 部活紹介や部員勧誘なども一切行わないので、実際に在校生でも映研の存在を知らない生徒が殆どであった。
 准はいきなり視聴覚教室に入ってきたその少年を見て、驚いたような表情をする。
 それから、彼に話しかけたのだった。
「君は……1年Dクラスの、相原渚くん?」
「ていうか、何でこんな分かりにくいトコにあるんですかぁ? おかげで校内グルグル回っちゃったし。あーむしろこの学校の構造考えた設計士、訴えたいくらい」
 はあっと溜め息をつき、その少年・渚はうんざりした表情でそう言った。
「あっ、おまえ昼間の? 何か、全然昼と印象違うな……」
 今日の昼休みに眞姫と話していた渚の様子を思い出した拓巳は、思わずそう呟く。
 渚はその場にいる映研部員たちをぐるりと見回し、そして可愛い顔にわざとらしい笑顔を作った。
「芝草先輩のおっしゃるように、僕は1年Dクラスの相原渚って言いますっ。それで今日なんですけど、この僕がわざわざ映画研究部の見学に来たってわけなんですよね」
 そう言って渚は、ふっと口元に笑みを浮かべる。
 それから声の印象を変え、続けたのだった。
「あーもう、まどろっこしいなぁっ。ていうかぶっちゃけちゃうと、僕って“邪者四天王”なんですよねぇ。だから“能力者”な先輩たちに挨拶でもしとこっかなぁって、わざわざこの僕が出向いてやったってコトなんですけど?」
「な……っ!?」
 次の瞬間、“能力者”全員の表情が一気に変化する。
 そんな反応に瞳を細めた後、渚はさらに続けた。
「そーいうわけですから、今後ともめっちゃ可愛い後輩の僕のコト、これでもかってくらい可愛がってくださいねぇっ」
「“邪者四天王”だって? お望み通り、これでもかってくらい可愛がってやるぜっ!」
 キッと渚に視線を投げ、拓巳はふっと身構える。
 健人はそんな拓巳の腕を掴み、首を振った。
「待て。落ち着け、拓巳」
「んだよっ、何で止めるんだよっ」
 拓巳は健人に目を向けて不服そうな表情を浮かべつつも、仕方なく構えていた手を収める。
 そんな様子を確認した後、准は目の前の渚に視線を移した。
「それで、その“邪者四天王”な君の目的は何?」
 准の言葉を聞いて、渚はふふっと笑う。
 それからザッと前髪をかき上げ、こう言ったのだった。
「“能力者”って、“浄化の巫女姫”が自分たちのための姫って大きな勘違いっていうか妄想してるでしょ? でも清家先輩は、僕の運命の相手ですから。そこのところちゃーんと理解しといてくださいね」
「……何だと?」
 拓巳を引き止めていた腕をパッと離し、健人は青い瞳を渚に向ける。
 それからグッと拳を握り締め、言い放った。
「姫に手を出したら、俺が許さない」
「何だよ……さっきは俺のこと、止めたくせによ」
 途端に戦意を漲らせて鋭い視線を投げる健人に、拓巳はぼそっと呟く。
 祥太郎はそんなふたりの肩を宥めるように叩いた後、ふうっと嘆息した。
「渚クンやったっけ? 悪いけどな、映研の部活動日は木曜なんや。今日は水曜やから、出直してくれへんか?」
 それからハンサムな表情の印象を変え、祥太郎は続けた。
「あ、今度くる時はセンパイへの態度っちゅーもんを勉強しとったほうがええで。ここの連中、すぐキレるヤツが多いんや。特に“邪者”に大してはな」
 そんな祥太郎の言葉にも全く怯む様子なく、渚は大きく首を振る。
「いいえ、もう見学は十分ですよ。大して面白そーな部活でもないし、可愛い僕ってば先輩たちにひがまれてイジメられちゃいそうだし」
「そう。じゃあ誰かがキレて“結界”張らないうちに、今日は帰った方がいいんじゃない?」
 聞いた感じは一見柔らかだが、明らかに渚の態度に不快感を持っている声で准はそう言った。
 渚はそんな言葉に逆らわずにドアに手をかけた後、振り返って笑う。
 そして去り際に、こう言ったのだった。
「僕と清家先輩の結婚式、ちゃんと呼んであげますから」
「……何だと?」
「まーまー、言わせとけ。気持ちは分かるけどな、健人」
 今にも“気”を放たんとする健人を止め、祥太郎は苦笑する。
 拓巳はキッと鋭い視線を投げたまま、チッと舌打ちをした。
 准も行動は起こさないが、微かに眉を顰めて怪訝な表情をしている。
 詩音は黙ったままで全員のやり取りを聞きながら、色素の薄いブラウンの瞳を細めた。
 そんな映研部員たちの様子にわざと可愛らしい微笑みを浮かべ、渚はとってつけたようにペコリと頭を下げてから視聴覚室を後にする。
「何だよ、あいつ!? 言うこと言うこと、いちいちムカつくなっ」
「僕たちを煽って楽しんでるんだよ。ま、元々の性格も大きいのかもしれないけど」
「“邪者四天王”かい……良く言えば、個性的なメンツばっかりやなぁ」
「…………」
 渚が出て行った後、思い思いに映研部員はそう呟く。
 そんな少年たちを見て、詩音は柔らかに口を開いた。
「これで先生に呼ばれた理由、騎士たちは分かったかな?」
 ……それと、同時だった。
 時計の針がカチッと動いた瞬間、再びガッとドアが開く。
 そして、現れたのは。
「ミーティングを行う。速やかに準備室に移動しろ」
「鳴海……」
 拓巳は表情を変え、いつも通り時間ぴったりに現れた鳴海先生に目を向ける。
 先生は全員を一度見回し、それから続けたのだった。
「彼に会ったのならば話が早い。何度も言わせるな、すぐに移動しろ」




 ――同じ頃。
 臨時でミーティングが行われていることなど知らない眞姫は、梨華とともに繁華街の喫茶店にいた。
「ここの紅茶って、いろんな種類があって美味しいよね」
 そう言って満足そうに微笑む眞姫に、梨華は意味ありげな表情を浮かべる。
 それから、ちらりと眞姫に視線を向けた。
「ねぇ、眞姫。今日の昼休みにジャニーズ系の可愛い子と話してたでしょ? 彼のこと、どう思ってるの?」
「昼休みって……渚くんのこと? どうって、可愛いなぁって思うよ」
「可愛いなぁ、ねぇ……」
 きょとんとして答えた眞姫に、梨華はうーんと考える仕草をする。
 それからひとくち紅茶を飲んで、続けた。
「彼って、顔も可愛いし頭もいいでしょ。なかなかいないよね、あんな子」
「渚くんって、天然ですごく可愛いの。まるで弟みたい」
 梨華の言っている言葉の真意が分かっていない様子で、眞姫はにっこりと微笑む。
 小首を傾げて栗色の髪を揺らす眞姫の様子に、梨華はふうっと小さく嘆息した。
「弟か、本当に周りにいい男いっぱいなのに勿体ないなぁ。何ていうか、それが眞姫っぽいんだけどね」
 眞姫に聞こえない程度の声でそう言った梨華は、そっと前髪をかきあげる。
 そんな梨華の様子に首を傾げながらも、まだ渚の本性を知らない眞姫は彼の甘えたような笑顔を思い出し、姉のように優しく微笑んだのだった。