学校や仕事の帰り道だろうか。
 喫茶店の全ての席を埋めている客たちは、甘いものを口に運びながら、それぞれ話を弾ませている。
 そして目まぐるしく流れる窓の向こうの繁華街の景色にちらりと目をやった彼も、例に漏れず学校帰りであった。
「ていうか、何が悲しくて、野郎二人でパフェ食わなきゃいけねーんだよ……」
「野郎二人でパフェってね……『魅惑の森のイチゴちゃんパフェ』食べてるのは、拓巳だけだろ?」
「ちょっ! そ、その名前を大きな声で言うなって!」
 パフェに乗っているイチゴよりも顔を真っ赤にさせながらも拓巳は准に目を向けて。
 准は涼しげな顔でアイスティーをひとくち飲んだ後、こう話を切り出す。
「美味しそうじゃない、その『魅惑の森のイチゴちゃんパフェ』。まぁ……そんな拓巳の『魅惑の森のイチゴちゃんパフェ』はともかくとして……そういえば、あのこと聞いた?」
「……おまえ、絶対わざとだろ」
 ちょっぴり恥ずかしいパフェの名前をさり気なく連呼する准にじろりと目を向けた後。
 拓巳はストロベリーソースがたっぷりついたバニラアイスを口に運びつつも、気を取り直し表情を変える。
「てか、あのことって……また祥太郎があの藤咲綾乃に狙われたってことか?」
 准はこくりと頷き、カランと音を立てアイスティーをゆっくりかき混ぜながら、溜め息をつく。
「今回は詩音が間に入って事無きを得たらしいけど、相変わらずおされてたらしいし」
「まぁ、殺られなくてよかったじゃねーかよ。今日もあいつ、ピンピンしてたしな」
「それはそうだし、祥太郎の性格は分かってはいるけど……でもね、僕は感心しないな」
 珍しく少し険しい表情を浮かべる准に、拓巳はかわいらしい顔の装飾が施されたイチゴちゃんをスプーンですくいながら言った。
「藤咲綾乃は祥太郎の友達でもあるし、あいつの性格的に仕方ないんじゃねーか? あいつ自身も、自分だけで落とし前つける気みたいだしよ」
「僕だって、祥太郎が自分だけで何とかしようと思ってることは分かってるよ。でもね……現状の祥太郎の行動を見ていると、少し甘すぎると思うんだ」
 それから准は顔を上げ、続ける。
「姫に何か危害が加わってから行動しても、遅いだろう?」
「でも、藤咲綾乃の狙いは祥太郎なんだろう? 姫はこの状況知らないし、何よりも姫の傍には俺たちもいる。危害なんて加えさせたりしねーよ」
「確かに藤咲さんの……いや、邪者の狙いは、今のところ祥太郎だけみたいだけど。それが逆に、すごく引っかかってるんだよね」
「引っかかってる?」
 はむっとすくったイチゴちゃんを口にして首を傾げる拓巳に、准は頷く。
「今回の邪者の目的が僕たち“能力者”の排除だとしたら、じゃあ他の邪者は何で動いてないの? まずはひとりずつと思っているとしてもだよ、“能力者”を殺すだけが目的にしては行動がおかしいよ。藤咲さん相手にいっぱいいっぱいの祥太郎の背後でもつけば、もっと簡単に追い詰められるのに、そんなことをする様子もないし。今までの相原くんの言動も、何だかやたら胡散臭いしね」
「まぁそうだけど、手を貸したりしたら、あの藤咲綾乃が怒りそうだからじゃね?」
「だから、おかしいんだよ。あのマッドサイエンティストな邪者や相原くんなら、むしろ率先して彼女の嫌がることしそうじゃない? なのに、素直に見守っているのがなんかすごく不気味だよ」
「うーん……言われてみれば、そうかもしれねーけど」
 スプーンをくわえたまま、拓巳は大きく首を捻って。
 頬杖をつき、准を改めて見ながら再び口を開いた。
「じゃあ、俺たち“能力者”を殺る以外の“邪者”の今回の目的って、何だよ?」
「さあ……それはさすがにまだ分からないけど」
 アイスティーをかき混ぜる手を止めず、准はさらにはっきりと、こう言葉を続ける。
「でもきっと、僕たちにとって良いことではないだろうね。それでもしも姫に何かあったりしたらと思うと……祥太郎の今の煮え切らない対応、やっぱり僕はいただけないよ」
「祥太郎も、さすがに姫に危害が加わるまで黙ってないとは思うけどよ」
 拓巳は再び真っ赤なイチゴを狙ってスプーンをパフェに差し入れながらも。
 上目で准を見つつ、ふいに悪戯っぽく笑んで言った。
「心配なら、あいつに直接そう言えばいいじゃねーかよ」
 そんな拓巳に視線を返した准は、ようやくもうひとくちアイスティーを飲んでから、ふっと嘆息して。
「もちろん言うよ? 今以上に納得いかない状態になったらね。ただ、彼のやり方をギリギリまで尊重したいとも思ってるから。それにいくら周囲がとやかく言ったところで、祥太郎の性格的に、素直に今までとやり方を変えるとも思えないしね」
 さらに、こう苦笑したのだった。
「まぁ僕が言うよりも前に、誰かが先に言いそうな気もするけど」
「誰か……あー誰かさんか。そうかもな」
「相手があの藤咲さんだから、余計にね」
 准と同じように、綾乃に対する祥太郎の態度に不服な誰かさん。
 それは、言わずもがな。
「てかよ……藤咲綾乃の今回の狙いが祥太郎じゃなくて健人だったら、違う意味で大変なことになってそうだよな……」
「清々しい程容赦なく派手にやりあいそうだよね。まぁでも仮にそうなっても、祥太郎が甲斐甲斐しくお節介焼くんじゃない?」
「祥太郎……自業自得とはいえ、あいつも大変なポジションだな……」
 殺気立つふたりの間に入る祥太郎の姿が容易に想像でき、思わずそう呟く拓巳。
 ……いっそ、敵同士として反目しあうような関係ならば、余計な苦労はしないだろう。
 だが、それが分かっていても。
 敢えて祥太郎は、綾乃と今のような関係を築いてきたのである。
 そして彼のそんな考え方や行動に対して他のボーイズたちは、賛同はせずとも理解はしているのだった。
 ただ――理解はしてはいるものの。
 自分たちにとって、何が一番大切で守るべきものなのか。
 それに一切のブレはない。
 勿論、祥太郎にとっても、それは同じのはずである。
 だからこそ、良しとは思っていないにしても。
 ボーイズたちは今のところ、彼のやり方を見守っているのであった。
「今回の件に関して……そういえば、鳴海先生はどう思ってるんだろうね」
 ふとそう呟いた准に。
 天敵である人物の名前を聞いた拓巳は、途端に気に食わない表情を浮かべる。
「あ? 鳴海? あいつは、姫や一般人が関わってない俺たちの個人的なドンパチには、ムカつくほど無干渉で無関心だろ」
「本当に今回のことが、個人的なもので済むことならそうだろうけどさ……」
 そしてそんな拓巳の言葉を聞いた准は、どこか納得いかない様子で再度首を傾げるも。
 綺麗に完食された目の前の『魅惑の森のイチゴちゃんパフェ』に気づくと、メニューを手にし、いい笑顔で言ったのだった。
「あ、拓巳。こっちのパフェも美味しそうだよ? 『不思議の国のマンゴー王子パフェ』だって」
「って、なんでいちいちパフェにそんな恥ずかしい名前付けるんだ、この店っ!? でも……このマンゴー王子も、確かに美味そうだな……」
 差し出されたメニューのマンゴー王子パフェを、思わずじーっと見つめる拓巳であったが。
 にこにこと笑んでいる准の様子にハッと気づき、顔を真っ赤にする。
「そ、そんな恥ずかしい名前のパフェ……た、頼むわけないだろっ」
「すでに『魅惑の森のイチゴちゃんパフェ』食べたの誰だっけ? てか、拓巳はいらないんだ……あ、すみません、この『不思議の国のマンゴー王子パフェ』をひとつ……」
 そしてすかさず通りかかった店員に涼しい顔でさらりとマンゴー王子パフェを注文し始めた准に。
「ちょ、頼むのかよ!? あ、ひとつじゃなくて……そ、それふたつ!」
 結局、慌てて便乗する拓巳であった。