「ていうか、ホント意味わかんないんだけど」
「何がだよ、渚?」
 賑やかな繁華街から少し外れた、小洒落た喫茶店内で。
 はあっとわざとらしく溜め息をつく渚に、一応そう聞いてみる智也であったが。
「あ? 決まってるだろ。何が悲しくて、おまえらとお茶なんてしなきゃなんないの」
「それは俺だって同じだ。でも仕方ないだろ? あ、じゃあ俺らで不満なら、つばさちゃんも今から誘って……」
「は!? 冗談じゃないってのっ。てかあいつ呼んだら、おまえぶっ殺すからなっ」
「だったら、少しは我慢しろよ」
 ぶんぶんと大きく首を振る渚の様子に笑った後、今度は涼介へと目を向けて。
「涼介は、いつも通りコーヒーでいいんだっけ」
「そうだね。僕が渚みたいにチョコレートパフェを頼んだら、それはそれで違和感あるだろう?」
「確かに……涼介がパフェ食べてる姿とか、全然想像できないし」
「てかこの僕だからこそ、チョコレートパフェ食べても何しても、様になるんだろ」
「そんなどや顔で言うことかよ、渚」
 智也は何だか得意気な渚にそうツッこみを入れつつも、呼び止めた店員に全員分のオーダーを告げた後。
 改めて二人へと目を向けると、早速、この日集まった本題に入る。
「それで、綾乃のことなんだけど」
 その言葉に最初に反応を示したのは、涼介であった。
「まだ綾乃はあの能力者のこと、仕留めてないんだろう? まぁ、想定通りではあるんだけどね」
「周囲の能力者も何気に超警戒してるみたいだから、攻勢でもなかなか止めにまでは至ってないみたいだよ」
「でもまー思った通り、瀬崎先輩って甘っちょろいから全然綾乃に反撃できてないみたいじゃない。もうそろそろ、殺っちゃうんじゃね?」
「綾乃が情に絆されるようなことなく彼に止めが刺せれば、だけどね」
 そう楽しそうにくすりと笑む涼介を見て、綾乃がこの場にいなくてよかったと、つくづく思いながらも。
「それで、これからなんだけどさ」
 智也はウェイトレスが頼んだコーヒー2つとチョコレートパフェを運んできたことに気付き、一旦口を噤む。
 そして嬉々と目の前に置かれたパフェのチョコレートアイスをひとすくいした渚は。
「まーそろそろ、清家先輩の耳に入れる頃合なんじゃない? 綾乃がさ……瀬崎先輩のこと、殺そうとしてるってコト」
 そう、飄々と言って。
「……そうだな」
 ふと複雑な表情を宿すも、こくりと素直に頷く智也。
 そんな智也とは逆に、妙に楽し気なその笑みを宿したままで、涼介もこう続ける。
「確かにね。綾乃があの能力者を殺しちゃう前に、お姫様の耳にはそのことを入れておく必要があるからね」
「んじゃ、決まりー。予想通り能力者の先輩達は、清家先輩にこのこと内緒にしてるみたいだからさ。近いうちに愛しの清家先輩をデートに誘って、僕がバラしちゃおーっと」
 それでいいだろ、と。相変わらずふてぶてしくパフェを頬張る渚に、智也は苦笑する。
「眞姫ちゃんとデートとか……本気で羨ましいんだけど、渚」
「ふふん、いいだろー。ま、せいぜい智也は僕のことを羨ましがりながら、指でもくわえて黙って待ってれば」
「なぁ、渚……グーで今すぐ思いっきりおまえの顔、殴り飛ばしてもいいか? いいよな??」
 相変わらず可愛げのない渚の言動に、思わず拳を握り締めるも。
「まぁまぁ。邪者同士の争いは良しとはしないだろう?」
「いや涼介、おまえが言うなよ」
 コーヒーを口に運びつつもしれっと言った涼介にそうツッこんでから、智也は大きく嘆息した後、しぶしぶ頷く。
「ったく、きちんとうまくやれよ、渚」
「あ? 誰に向かって言ってるんだ、この僕だぞ? おまえなんかよりずっと上手くやれるし」
「眞姫ちゃんの前では、これでもかって猫かぶりまくってるくせに……」
「何なら僕からお姫さまに話しても、なかなか面白くなりそうだけどね」
「あのな、ソレ面白いのはおまえだけだろ。綾乃が烈火の如く怒るから、まじやめてくれ」
 ふふ、と笑む涼介に、慌てて智也は大きく首を振って。
「てか涼介。僕と清家先輩のデート、もし邪魔したらぶっ殺すからな」
 はむりとパフェのチョコレートムースを頬張りながら、渚は涼介へと視線を投げる。
 そんな二人の様子に、わざとらしく涼介は首を竦めてみせて。
「信用ないんだな、大丈夫だよ」
「おまえの大丈夫ほど、胡散臭いものはないし」
 本当に涼介頼むから、くれぐれも余計なことはするなよな……と。
 智也は珈琲をひとくち飲んでから、もう一度、大きな溜め息をついたのだった。