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 4月14日、水曜日。
 ここ数日、特に“邪”が現れることもなく、眞姫はごく普通の高校生活を楽しんでいた。
 今日の午後の授業もすでに終わり、今教卓では鳴海先生が明日の行事予定を淡々と話している。
「ねね、眞姫。今日なんだけど、これから暇?」
 鞄に教科書を片付けている眞姫の腕を突付いて、梨華は言った。
 隣の席の梨華の方に視線を向け、眞姫はこくんと頷く。
「うん。特に何も用事ないけど、何で?」
「美味しいケーキ屋見つけたんだ、行ってみない?」
 梨華の言葉に、眞姫はパッと表情を変えた。
「うん、行く行く!」
「じゃあ決まりねーっ。TVでもその店特集されててさ、一昨日食べに行ったんだけど、めちゃめちゃ美味しかったよ」
「本当? 梨華のオススメなら間違いないもんね」
 流行に敏感な梨華はどこからそういう情報を集めてくるのか、お洒落なお店や流行のファッション、ウワサ話などまでよく知っている。
 彼女は交友関係も幅広く話題も抱負で、眞姫は梨華と一緒にいるのが楽しかった。
「ていうかさ、鳴海のヤツ、数学の課題出しすぎじゃない? あーもう毎日の課題、大量すぎだしっ」
 訝しげに教卓の先生を見てから、梨華は溜め息をつく。
「そう、かな」
 何て答えていいか少し戸惑いながら、眞姫も先生にちらっと視線を向けた。
 相変わらず鳴海先生は、その表情を変えず事務的に連絡事項を伝えている。
 ふと眞姫は、すぐ近くで見た綺麗な切れ長の瞳の色を思い出し、俯いた。
 体調を崩して車で家まで送ってもらって以来、特に先生とは何も話していない。
 “邪”の出現も、ここ最近落ち着いているからであろうか。
 映研のメンバーとは、ごく普通の友達と何ら変わらず仲良くしている。
 このまま何事もなく毎日が過ぎてくれればと、眞姫は溜め息をついた。
「眞姫、どうしたの?」
 俯いて嘆息する眞姫に、梨華は不思議そうな顔をする。
「え? いや、何でもないよ」
 ふと顔をあげて、にっこり笑顔を梨華に向けて眞姫は言った。
 そしてようやく連絡事項が終わったのか、先生が学級副委員長の准に視線を向ける。
「起立、礼、着席」
 しっかりした声で准の号令が教室に響き、そして教室に活気が戻ってきた。
「眞姫ーっ、さ、行こっ」
 ホームルーム終了を待ってましたとばかりに、梨華は下校準備万端な様子で言った。
「えっ、あ、待ってっ」
 まだ机に出たままのノートを急いで鞄に入れて、眞姫も立ち上がる。
 そして、ふと何かを思い出したかのように、前の席の准に言った。
「あ、准くん、学級委員会議っていつだって先生言ってた?」
 その眞姫の言葉に、頭の良さそうな笑顔を浮かべて准は笑う。
「さっきホームルームで、今週の金曜日って言ってたよ」
「あ、本当? ありがとね」
「うん、また当日になったらホームルームでも言うと思うよ、姫」
「あ、そうだね、ありがとう……あっ、梨華、待って! じゃあ、准くんまた明日ね」
 急かす梨華の声に慌てながら、眞姫は准に手を振った。
「うん、気をつけて帰ってね」
 そんな眞姫の姿を微笑ましく見つめながら、准も手を振る。
 そして眞姫の後姿を見送ってから、ふっとひとつ溜め息をついた。
「本当に気をつけて帰ってね、姫」
 心配そうな表情を浮かべて、准はぽつんとそう呟いたのだった。
 教室を出た眞姫と梨華は、今日放送されるTVドラマのことを話しながら、靴箱までの道のりを歩いていた。
 ちょうどどこのクラスもホームルームが終わったばかりの時間だったので、廊下はたくさんの生徒で溢れかえっている。
 運動場では、ぼちぼち運動部の生徒が部活の準備をし始めている。
 その時だった。
「あっ、清家さん」
 急に自分の名前を呼ばれて、眞姫はふっと振り返った。
「桑野先生、どうしたんですか?」
 眞姫を呼び止めたのは、眞姫たちのクラスの国語を担当している、桑野という教師だった。
 まだ教師になって数年しか経っていない、若い男の先生である。
 若くてハンサムな桑野先生は、女生徒に人気のある先生だった。
 そんな桑野先生は、眞姫に言った。
「君がBクラスの学級委員だったよね? 明日の朝、授業で使うプリントを国語準備室まで取りに来て欲しいんだけど、いいかな」
「はい、わかりました」
「悪いね。頼んだよ」
 にっこりと微笑んでから、桑野先生は去っていった。
「ねーねー、桑野先生ってかっこよくない?」
 眞姫の隣で、梨華がそう興奮した面持ちで言った。
「そうね、確かに顔はかっこいいけど、何かちょっとナルシストっぽくない?」
「それがまたいいんじゃない、さりげなくブランドの服着てるところもお洒落だしっ」
「本当にそういうところよく見てるね、梨華」
 梨華のチェックの細かさに感心してから、眞姫はふっと笑った。




 同じ頃。
 眞姫に遅れて教室を出た准は、拓巳と祥太郎と一緒に廊下を歩いていた。
「ったく、何でこんな回りくどいコトしてんだ、鳴海のヤローはよ」
 ぶつぶつ言っている拓巳に、准は苦笑しながら言った。
「何か鳴海先生にも考えることがあるんじゃない? 僕も、うかつに手を出すのはどうかと思うし」
「考えること、なぁ。どうせろくなもんやないやろ、あの悪魔の考えならな」
 祥太郎はそう言って、はあっとわざとらしく溜め息をつく。
 そんな拓巳と祥太郎を見ながら、准は口を開いた。
「姫にはまだ言ってないだろう? 今回の黒幕が誰か。でも、今日姫にも教えるって」
 准の言葉に、拓巳と祥太郎は同時にハッと顔をあげる。
「えっ、姫に教える必要はないんじゃねーか? 俺らがヤツを片付ければ、それで終わりだろう? それをわざわざ、何で」
「教えるって、鳴海センセが姫に言うってことか?」
「いや、健人と詩音がね、鳴海先生に言われてヤツの行動を監視してるんだ。それで今日、ちょっと何か仕掛けるらしくて」
 そこまで言って、准は言葉を切る。
 気に食わない表情を浮かべて、拓巳は呟いた。
「監視? 何だよそれっ。俺、全然聞いてねーぜ?」
「そらそうやな、拓巳には向いてないからな、そーいう器用なコト」
 祥太郎はその拓巳の言葉に、悪戯っぽく笑う。
 むっとした顔で祥太郎を見て、拓巳も負けじと言い返す。
「悪かったな、不器用でっ。おまえみたいに節操なくないからな、オレ」
「節操なしやて? 俺は今、姫にめっちゃめちゃ一途やで? 心外やなぁ、たっくんっ」
「おまえの携帯のメモリー、女の名前ばっかりじゃねーかよ。どこが一途なんだ?」
 はあっと溜め息をつく拓巳に、祥太郎はにっこり笑顔で言った。
「それはお友達やん。あ、でも拓巳の番号も、一応電話帳には登録しとるからなっ」
「一応かよ! ていうか、俺の電話帳の登録を“たっくん♪”で入れてるの、変えろって言ってるだろう!?」
「またまたぁ、照れんでもええって。たっくん♪」
「おまえっ、やめろって言ってるだろ!? 気色悪いっ」
 そんなふたりのやりとりを黙って聞いていた准が、苦笑しながら祥太郎を見る。
「僕のも、“じゅんじゅん”って入れてるの、変えて欲しいんだけど? 祥太郎」
「なんやぁ、俺らの親しい仲やんか。なぁ、じゅんじゅんっ」
「あのさ、親しき仲にも礼儀ありっていう言葉があるの知ってる? 祥太郎」
「そない言わんでも。准は結構冷たいからなぁ」
 冷めた視線を准に向けられた祥太郎は、照れたように髪をかきあげた。
 そして、それからふっと表情をひきしめて言った。
「まぁ、冗談はさておき、や。仕掛けるって、どういうことなん? それで、姫に黒幕のこと教えるって、どういうことや」
「僕も、詳しく聞いたわけじゃないんだけど。仕掛ける時、その場に姫を呼ぶらしいよ」
「その場に、姫を!?」
 驚いたように拓巳は声をあげる。
 そんな拓巳にちらっと視線を向けて、そして准は言葉を続けた。
「うん。姫にはとにかく“憑邪”(ひょうじゃ)のことを、まず理解してもらおうって思ってるみたいだよ、鳴海先生は」
「それなら口で説明すりゃいいだろ!? 姫が危険な目に合うかもしれないんだぜ!?」
「実際に目で見たほうが、今後の姫のためだってことじゃないかな」
「ならオレも行くぜ! 姫のこと、守るって約束したからなっ」
くっと唇を噛む拓巳に、准は首を横に振る。
「それはできないよ。今回は、拓巳と祥太郎は動くなって。鳴海先生が」
「何やて?」
 ふっと、祥太郎がその准の言葉に眉を顰めた。
「どういうことだよっ!? 姫を守るのが、オレたちの使命だろ!? なのにっ」
「それはそうなんだけど、あの程度の“邪”に全員で動くことはないって」
 困ったように准は、険しい表情を浮かべるふたりを見る。
 ふたりの気持ちは、准にも理解できる。
 でも、鳴海先生のいうことも正しい。
 どうしてこういう役回りが回ってくるんだろうと苦笑しつつも、准は続ける。
「心配なのは分かるよ。でも今回は、鳴海先生の言う通りだと思うよ」
「…………」
 ちっと舌打ちをして、拓巳は腕組みをして黙り込む。
「よりによって、拓巳と仲良く留守番とはなぁ。イジメとしか思えんわ」
 ふっと苦笑いを浮かべ、祥太郎はそう言った。
 そんなふたりの姿を交互に見てから、准はひとつ大きく嘆め息をついたのだった。




 同じ頃。
「うん、このケーキ美味しいねっ」
「でしょ? 眞姫ならそう言ってくれると思ったんだ」
 可愛い形のケーキをなるべく崩さないように、眞姫はもうひとくちそれを口に運ぶ。
 上品な甘さが口に中に広がり、ささやかながら幸せな気持ちになる。
 美味しそうにケーキを食べている眞姫を、梨華は満足そうに見た。
 そして、紅茶をひとくち飲んでから言った。
「ところで眞姫ってさぁ、好きな人とか、いる?」
「え?」
 予想していなかった梨華の言葉に、眞姫はきょとんとする。
 梨華はそんな眞姫の反応を見て、話を続けた。
「眞姫ってさ、結構友達にイイ男多いでしょ? 誰が本命なのかなーって」
「ほっ、本命?」
「特にさ、あの時々一緒に登校してる彼、Cクラスの蒼井健人くんだっけ? 彼といい雰囲気じゃない?」
 ニヤニヤして、梨華は眞姫を突付いた。
「白状しなさーいっ、誰が本命?」
「い、いや、本命とか、そんなこと考えてなかったなぁ」
 うーん、と唸って、眞姫は視線を宙に向ける。
 確かに映研の仲間たちは1人1人タイプは違えど、はたから見たらイイ男が揃っていると言っても過言ではない。
 違う意味で普通の友達以上に頼りにしているところはあったが、そういう対象で今まで考えていなかったのだ。
「特に今は、好きな人っていないかも」
「そっか、そうなんだぁ」
 眞姫の言葉に、梨華はほっとしたような表情を浮かべる。
 そして、意を決したように口を開いた。
「私さ、好きな人がいるんだけど、誰か分かる?」
「えっ?」
 眞姫はどう答えていいか分からず、少し考えた。
 そして、言った。
「梨華の好きな人って、違ってたらごめんね。それって、祥ちゃん?」
「そっか、やっぱりバレてた?」
 能天気に、梨華はそう言って笑った。
 眞姫は紅茶を飲んでから、梨華を見る。
「んー、見てて、何となくそうかなぁって」
「私さ、好きになったらすぐ顔に出ちゃうのよね。結構一目ぼれとかしちゃうんだけど、所詮一目ぼれだから、いつもすぐ冷めちゃうんだ」
 そこまで言って梨華は、ふっと視線を落とした。
 そして溜め息をついて、再び口を開く。
「でもね、アイツは違うんだ。こんなに長くひとりの男のこと好きだったことないし……何か気がつけば、祥太郎のこと考えてたりしたりするのよね……。でもさ、アイツって、あーいうノリだから女にモテるし。ちょっと不安になったりするんだ」
「梨華」
 いつも元気で前向きに見える梨華の俯いた表情を、眞姫はじっと見た。
 そして、言った。
「祥ちゃんってさ、ああいう面白いこと言っておちゃらけてるけど、節操のない人ではないと思うんだ、私」
 眞姫の言葉に、梨華はふっと笑う。
「そうだね、ありがとう眞姫。でも、最近の祥太郎って、好きな子が……」
 後半部分だけ小声になって、梨華は考え込む仕草をする。
 小声になった言葉を聞き取れなかった眞姫は、不思議そうな表情を浮かべた。
「え? 何?」
「ん? い、いや、何でもないよっ。ところで眞姫もさ、あんなイイ男たちがそばにいるんだから、誰か本命作ったら?」
 慌てて話を逸らして、梨華は眞姫に目を向ける。
 眞姫は再び自分のことに話題が変わり、目を見開いた。
「え? 本命を作るって言われても」
「んー、芝草くんとは優等生コンビでいいかも? あっ、でもあの眞姫のこと好き好き光線出しまくってる、Hクラスの小椋拓巳くんだっけ? 愛するより愛された方が楽だからねー、あ、それともあの変わったピアニストの彼?眞姫くらいじゃない? 会話成立してるの。あとは……」
「ちょ、ちょっと待って、どうしてそーいう話にっ」
 慌てて眞姫は、梨華の言葉を静止する。
 そして紅茶をひとくち飲んで、気持ちを落ち着かせた。
 梨華はそんな眞姫の表情を見て、にっと笑う。
「もしかしてさぁ、ないとは思うんだけど」
「え?」
 ふっと顔をあげた眞姫に、梨華は言葉を続けた。
「もしかして眞姫の本命って、鳴海先生だったりして」
 一瞬、眞姫は梨華の言葉を理解できなかった。
 そして。
「ええっ!! な、鳴海先生っ!?」
 眞姫の反応に、梨華はくすくすと笑い始める。
「冗談だってば。あんな冷血動物、私なら絶対イヤだけどねー。数学教師ってだけで寒気がするのにっ。あ、でも眞姫のことは大のお気に入りみたいだけどね、先生」
「お気に入りって、そんなことないと思うんだけど」
「いや、絶対眞姫のこと気に入ってるって。気をつけないとダメよー」
まだ笑いが止まらない様子の梨華は、そう言って残っていたケーキを口に運んだ。
「気をつけないとって……」
 言葉を失って、眞姫は視線を落とす。
 どこをどう見たら、自分が鳴海先生のお気に入りだというんだろうか。
 ある意味、ただの先生と生徒の関係ではないかもしれない。
 でもそれは、映研のメンバー全員同じことである。
 うーんと考え込んでしまった眞姫に、梨華は笑った。
「やだなぁ、冗談だからそんなに気にしないでよ」
「え? う、うん、大丈夫。気にしてないよ。ちょっとびっくりしただけ」
 そう言って、眞姫も最後のひとくちのケーキを口に運ぶ。
 梨華はそんな眞姫を見て、くすっと笑って言った。
「本当に眞姫って、可愛いよね。私が男なら惚れちゃうなぁっ」
「な、なにそれ?」
「何って、言った通りの意味よ? あ、じゃあ、店そろそろでようか」
 ふふっと楽しそうに梨華は笑って、席を立った。
 眞姫もそれに続いて立ち上がる。
 そしてそのケーキ屋を出て、眞姫と梨華は賑やかな繁華街を歩く。
「あ、じゃあ私、ここからバスで帰るから。眞姫は地下鉄でしょ?」
 梨華の言葉に、眞姫は頷いた。
「うん。今日は美味しいケーキ屋さん教えてくれてありがとう。また行こうね」
「どういたしましてっ、また行こうね、眞姫」
 にっこり微笑んで、梨華は手を振る。
 そんな梨華に手を振り返して、眞姫は言った。
「また明日ね、梨華。頑張ってね、応援してるから」
 その言葉に少し不意をつかれた顔をした梨華だったが、一瞬で嬉しそうな表情に変わる。
「うん、頑張るよ、ありがとね!」
 いつもの元気な彼女の表情を、眞姫は笑顔で見送る。
 そして、自分も帰ろうと地下鉄に向かって歩き出した。
 ……その時だった。
 眞姫の携帯の着信音が、突然鳴り始めた。
 着信者表示の相手の携帯番号を見ても、知らない番号。
 一瞬取るか取らないか迷った眞姫だったが、とりあえず受話ボタンを押した。
「もしもし?」
『鳴海だ』
 携帯から聞こえてきたその聞き覚えのある声に、眞姫は一瞬きょとんとする。
 そして。
「えっ? え……な、鳴海先生!?」
『今からだが、予定は空いているか?』
 眞姫の反応とは逆に、相変わらず淡々と先生はそう言った。
 すっかり慌てた眞姫は、オタオタした様子で頷く。
「あ、はい。特に、用事はない、ですけど」
『では、今からそこに詩音が迎えに行く。君はそこにいなさい』
「詩音くんが? 迎えって……どこに行くんですか?」
『それは、彼が来れば分かる。いいな、そこにいるように』
「…………」
 それ以上聞くなと言わんばかりの先生の口調に、眞姫は黙るしかなかった。
 そして、諦めたように言った。
「わかりました、ここにいます。あっ、今私のいる場所は……」
『それは言わなくても問題ない。心配は無用だ。では』
 それだけ言って、電話は切れた。
 ツーツーという音を聞きながら、眞姫は首を捻る。
 ここがどこだか、言わなくても大丈夫なんだろうか。
 それ以前に、どうして鳴海先生が自分の携帯番号を知ってるんだろうか。
 そういくつの疑問に首を傾げながら、眞姫は携帯の画面を見つめる。
「あっ、鳴海先生の携帯番号、電話帳に登録しておこう……」
 どうしていいかわからない様子で、とりあえず眞姫は携帯を弄りだした。
 そして3分ほどたった、その時。
 一台の車が、眞姫のすぐ真横で止まった。
 そして、そこから出てきたのは……。
「やあ、君を迎えに来たよ。お姫様」
「あ、詩音くん」
 その黒のプレジデントから降りてきたのは、鳴海の言った通り、詩音だった。
「さあ、お姫様。王子の馬車へどうぞ」
 眞姫の手を取ってエスコートする詩音に、眞姫は驚いた表情を浮かべる。
「よくここに私がいるって分かったね、詩音くん」
「王子と姫は再会する運命にあるものだろう? さ、とりあえず乗って」
「え? あ、う、うん」
 状況が理解できなかった眞姫であるが、とりあえず詩音の言うように車に乗った。
 そしてドアが閉められ、その眞姫を載せた車は、ゆっくりと走りだしたのであった。