――夏休みも終わりに近づいた、ある日。
 眞姫は地下鉄の階段を下り、改札を通り抜ける。
 それから駅のホームへと足を踏み入れ、きょろきょろと周囲を見回した。
 そして。
「健人」
 駅のホームで待っていた少年・健人を見つけた眞姫は小走りで駆け寄り、にっこりと微笑む。
 ホームで彼女を待っていた健人は、眞姫の到着に綺麗なブルーアイをふっと細めた。
 それと同時に、駅構内に電車が入って来る。
 二人は並んで人波に逆らわず、その電車に乗った。
「何だかこうやって健人と一緒に電車に乗るのも、久しぶりな気がするね」
 眞姫は栗色の髪をそっとかき上げ、健人の顔を見上げる。
「そうだな。今は夏休みだからこうやってふたりで電車に乗ることも少ないけど、またもうすぐ二学期も始まるしな」
 早く夏休みが終わって、二学期が始まって欲しい。
 そしたらまた、毎日こうやって眞姫と一緒に電車で通学できるから。
 そう心の中で思いながらも、健人は今自分の隣にいる眞姫に視線を向ける。
 今日の眞姫の服装、少し広めに開いたトップスの胸元から見える可愛らしいレースのキャミソールがとても可愛らしい。
 スカートも夏らしい涼しげなふわりとした素材のもので、彼女の雰囲気に良く合っている。
 普段から見慣れた、ブレザーの制服姿もいいけれど。
 たまにしか見ない彼女の私服姿も、なかなか新鮮である。
「調子はどう? 今日のテスト、どんな感じ?」
 自分に熱い視線を向けている健人の様子に相変わらず全く気がつかず、眞姫は暢気に彼に訊いた。
 健人はそんな眞姫にそっと苦笑しつつも口を開く。
「そうだな、できることはやったからな。あとはもう、なるようにしかならないだろう」
「みんな合宿も頑張ってたしね。今日のテスト頑張ってね、健人」
「ああ。ありがとう、姫」
 健人はポンッと眞姫の頭に軽く手を添え、小さく頷いた。
 今日――この日は。
 少年たちの訓練の成果が試される、テストの日なのである。
 そのテストが行われる都内某所の訓練場所に、家の近い眞姫と健人のふたりは一緒に向かっていたのだった。
 テストの相手は、もちろんあの鳴海先生である。
 合宿も充実したものであったし、その後も何度か集まってテスト対策を練ってきた。
 鳴海先生を負かすにはまだ及ばないかもしれないが、せめて一矢報いたい。
 少年たちはそう強い目標を持って、今日という日に臨んでいるのである。
 ……それに。
 何よりも今日は、想いを寄せる眞姫もいる。
 彼女の前で少しでもいい格好をしたいという気持ちも、少年たちにはもちろんあって。
 いつもより余計に気合が入っているのだった。
 かたや、そんな少年たちの気持ちも知らず。
 当のお姫様は相変わらずマイペースである。
 いや、彼女は彼女なりに一生懸命で、夏休み前に鳴海先生に言われた通り“気”の練習もかなりしているのだが。
 そんなに器用ではない彼女にはそれが精一杯で、まだ少年たちの淡い恋心に気付き受け止めるような心の余裕がないのである。
 鈍すぎるといえば、それまでだが。
 でも眞姫のそういうところも含めて、少年たちは彼女のことが好きなのである。
 それにもう、眞姫の鈍さにも慣れているし。
 彼女に恋をする心の余裕ができるまで待とうじゃないかと。
 少年たちはそう、各々思っていたのだった。
 健人は隣で楽しそうに話をする眞姫をじっと見つめる。
 それから、改めて思ったのだった。
 彼女のことを、何があっても守ってみせると。
 そのためには今よりももっと力をつけ、強くなる必要がある。
 そして――彼女がいるから。
 自分たちは、ひとつになって頑張れるのだと。
 健人は目の前の眞姫と志が同じ仲間の存在に、もう一度ふっと青の瞳を細めたのだった。




 ――同じ頃。
 “邪者四天王”の面々とつばさは杜木に呼ばれ、繁華街の喫茶店に集まっていた。
 その雰囲気は相変わらず仲が良いのか悪いのか分からない。
 そして智也にとっては、杜木が来るまでのこの時間が一番ハラハラするのだった。
 良く言えば個性的、全員がゴーイングマイウェイで。
 その上にお互いライバル意識も強いから、収集がつかなくなることもよくある。
 だがそんな決して馴れ合わない関係が、逆に分かりやすいといえばそうなのであるが。
 智也は癖のある仲間の様子を見守りながらも、珈琲をひとくち飲んだ。
「ていうかさ。何でせっかくの夏休みに、おまえらなんかの顔見なきゃいけないんだよ」
 はあっとわざとらしく大きな溜め息をつき、渚はふてぶてしく口を開く。
 その言葉に同意するように頷き、綾乃は続けた。
「杜木様がいらっしゃるから仕方ないけど、涼介と一緒の空気吸うだけでも不愉快だわ」
 テーブルに頬杖をついて露骨に嫌な表情をする綾乃に、涼介は楽しそうに笑う。
「そうかい? 僕は綾乃と会えてすごく嬉しいんだけどね。その殺気に満ちた表情が、今日もまた素敵だよ、綾乃」
「……ったく、今すぐにでも殺してやりたいわ。そのニヤけた顔見てると」
 クスッと自分を煽るように笑みを浮かべる涼介を睨み付け、綾乃は面白くなさそうにそう呟いた。
 智也はそんな普段と変わらないやり取りを聞いて、大きく息をつく。
 それから話題を変えようと、つばさに目を向けた。
「そういえばつばさちゃん、先週の日曜日に杜木様とドライブしたんだろう?」
 その智也の問いに、つばさはふと何かを考える仕草をする。
 それから小さく首を縦に振り、言った。
「ええ。でも驚いたわ、杜木様から連れて行って貰った場所に、あの鳴海将吾っていう“能力者”もいたの」
「鳴海将吾って、あのコワイ聖煌の鳴海先生?」
 以前先生と対峙したことのある智也は、その時のことを思い出しながらも首を捻る。
 つばさはちらりと智也に目を向け、話を続けた。
「しかも杜木様、あの“能力者”にこう話してたの。自分と手を組まないか、ってね」
「杜木様が、“能力者”の統率者である彼と?」
 涼介は漆黒の瞳をおもむろに細め、興味深そうにそう呟く。
 逆に渚は興味なさそうに言った。
「鳴海先生と手を組むだって? 冗談じゃないよ。あの先生の数学って確かに分かり易いけど、授業も何か威圧的だしテスト問題もやたら難しいし。ま、でもこの頭脳明晰な僕は、いつもそんな数学も百点満点だけど」
「百点満点って……おまえって結構、何気に言うこと可愛らしい時あるよな」
 智也はからかうように笑い、渚に視線を移した。
 そんな智也にムッとした表情をし、渚はチッと舌打ちをする。
「あ? 誰に向かってそんな口聞いてるんだよ。智也のくせに生意気なんだよ」
「生意気なガキはおまえだろ。ていうか、おまえはジャイアンかよ」
「うるさいな、ちょっとは黙れ。あーていうか、こんな会っても仕方ないヤツらに会うくらいなら、早く学校始まって清家先輩に会いたいよ」
 ふうっと嘆息し、渚は漆黒の前髪をかき上げた。
 智也はその言葉に思わず苦笑する。
「羨ましいよなぁ、眞姫ちゃんと同じ学校なんて。羨ましいっていうか、ぶっちゃけムカつく。俺なんてなかなか彼女に会えないってのに」
「まぁ、この頭脳明晰で容姿端麗な僕を妬む気持ちは分かるけど。清家先輩に相応しいのはこの世で僕くらいだから、さっさとおまえは先輩のこと諦めろ」
 妙に自信満々で得意気な渚を見て、綾乃はパクッとパフェを口に運んだ。
 それから、しみじみと言った。
「本当に勉強のできる人と頭のいい人って、別物だなーって思うよねー。いくら勉強できても、本質バカとか変態とかだったら元も子もないし」
 渚と涼介に交互に目を向けながら、綾乃は小さく首を振る。
 涼介は相変わらず楽しそうな様子で、逆ににこやかな笑顔を綾乃に返す。
 そんな涼介に、綾乃はますます気に食わない顔をした。
 ……その時だった。
 つばさはおもむろに顔を上げ、喫茶店の入り口に視線を向ける。
 そして嬉しそうに微笑むと、口を開いた。
「杜木様……」
 そんなつばさに遅れ、残りの4人も入り口に目を向けた。
 それと同時に、店内の空気が微妙に変化する。
 深い黒を湛える瞳が神秘的な、目を見張るような完璧な容姿。
 強大な“邪気”をその身に宿しながらも、物腰は柔らかい。
 杜木は全員揃っていることを確認し、にっこりと綺麗な顔に笑みを宿す。
 そして、いつも通りの穏やかな声で言ったのだった。
「呼び出して悪かったね。おまえたちともう一度、これからすべきことを話しておきたいと思ってね」




 眞姫は都内某所にある、広いトレーニングルームにいた。
 もちろんその場には、少年たちの姿もある。
 少年たちはもうすぐ現れるだろう鳴海先生が来る前に、真剣に作戦会議をしていた。
 そんな彼らの様子を見守りながら、眞姫はその顔に微笑みを浮かべる。
 ひとつのことに対して、一生懸命に仲間と打ち込むことができる。
 そういう関係が、眞姫にはとても羨ましく思えた。
 そして自分も、彼らと一緒に頑張っていこうと。
 眞姫はそう強く思ったのだった。
「ていうか、たっくんが時間より早く来るなんて珍しいこともあるもんやなぁ」
「まぁ、遅刻するよりはずっといいけど。明日は雨降るんじゃない?」
 祥太郎と准の言葉に、拓巳は漆黒の前髪をかき上げる。
「うるせーな、今日こそはあの鳴海の野郎をぶっ飛ばしてやるんだからよっ」
「いつもやる気だけは十分だからな、おまえ」
 早々と気合の入っている拓巳に、健人はちらりと目をやった。
 詩音は優雅な笑顔を宿し、マイペースに口を開く。
「騎士たち。この王子とともに、今日の悪魔の試練を乗り切ろうじゃないか」
「悪魔の試練か、何や憂鬱やなぁ。ま、やるからにはボコられんようやったるけどな」
 苦笑しつつも祥太郎はうんうんと頷いた。
 拓巳はグッと拳を握り締め、気合を入れる。
「おうよ、やってやるぜっ」
「僕たちにできることはやってきたからね。あとは、それをちゃんとテストで出せるかどうかだよ」
 准はトレーニングルームの時計で時間を確認し、改めて表情を引き締めた。
 ブルーアイを細め、健人は自分たちを見守っている眞姫に目を向ける。
 そして、トレーニングルームの入り口に視線を移した。
 ――それと、同時だった。
 トレーニングルームの時計が定刻を示し、機械的な電子音が鳴り響く。
 そして、おもむろに入り口のドアが開いたのだった。
 途端に少年たちの表情が一変し、雰囲気がピリピリとしたものに変わる。
「全員揃っているな」
 威圧的な雰囲気を持つ声が、そう少年たちに投げられた。
 それから時間通りにその場にやって来た鳴海先生は、早速テストを始めるべく“結界”を張ろうと“気”を漲らせる。
 その時だった。
「…………」
 ふと一瞬動きを止め、先生はトレーニングルームの入り口に視線を向ける。
 そして数秒後、おもむろにドアが開いた。
 眞姫は現れた人物を確認し、驚いたように瞳を見開く。
 だがすぐに、その顔に笑顔を浮かべた。
「やあ、みんな。ご機嫌いかがかな?」
 姿をみせたのは、鳴海先生の父親である傘の紳士だった。
「あ、おじ様」
「こんにちは、お姫様。私も見物させてもらおうと思ってね」
 そう言って眞姫に微笑んだ後、紳士は鳴海先生に目をやる。
「やあ、将吾。私にも、このテストを是非見物させてくれないかな?」
「……ええ、もちろん構いません」
 短くそれだけ答えつつ、鳴海先生は思わぬ父の登場に小さく嘆息した。
 それから改めて、周囲に“結界”を張ったのだった。
「さ、お姫様。私と一緒に騎士たちの成長を見守ろう」
 紳士は眞姫の横に置かれた椅子に座り、楽しそうに笑う。
 そんな紳士の言葉にコクンと頷き、眞姫は“結界”内の様子をじっと見つめたのだった。
「テスト内容は分かっているな。テスト内容は至って簡単、この私との手合わせだ」
 鳴海先生はぐるりと少年たちを見回し、そしてこう続ける。
「分かったら、さっさとテストを始める。誰から無様な姿を晒すか?」
「んだと? そんな偉そうな態度も、今のうちだっ!」
 拓巳はキッと鋭い視線を先生に投げ、その手に“気”を宿した。
 ほかの少年たちもそれぞれ顔を見合わせ、戦闘体制に入る。
 それから先手必勝と言わんばかりに拓巳はダッと地を蹴り、“気”を漲らせた手刀を大きく振り下ろした。
 鳴海先生は唸りを上げる拓巳の衝撃をかわすべく、切れ長の瞳を細める。
 そして難なく身を翻し、跳躍した。
 だが――その瞬間。
「……!」
 鳴海先生は拓巳の攻撃を避けつつも、ふと表情を変える。
 周囲の空気の流れが微妙に変化し、殺風景なトレーニングルームがその様相をガラリと変えたのだった。
「ほう、詩音くん、かなり短時間で自分の“空間”を形成させられるようになったんだね」
 “結界”の外で戦況を見守っている紳士は、感心したようにそう呟いた。
 鳴海先生が張った“結界”内を。
 一瞬にして、詩音の作り出した“空間”が支配したのだった。
 だが先生はそんな状況にも慌てることなく、さらに繰り出される拓巳の衝撃を難なく防ぐ。
 健人は詩音の“空間”が張り巡らされたことを確認し、その手に“気”を漲らせた。
 そして目標を定めるかのようにブルーアイを先生へと向け、眩い光を放った。
 詩音の“空間”により、その健人の衝撃は大きく膨らむ。
 鳴海先生は冷静に目の前に防御壁を張ってそれをやり過ごした。
 そんな先生の動きに合わせ、祥太郎と准は同時に“気”を繰り出す。
 複数の光が、四方から鳴海先生を捉えんと唸りを上げた。
 先生は衝撃の合間を縫い、高い身体能力でそれらを避ける。
 拓巳はすかさずそんな先生との間合いを詰めると、今度は接近戦に持ち込もうとする。
 だがそうはさせまいと、鳴海先生は素早く“気”を集結させて拓巳に放った。
「くっ!」
 拓巳は歯をくいしばり、大きな“気”の光を受け止める。
 何とかその攻撃を浄化させた拓巳だったが、鳴海先生は容赦なくその掌から第二波を繰り出した。
 普段ならば、その衝撃を正面から受け止めるか准がサポートに回って防御壁を形成させるかというのが、決まったパターンだが。
 拓巳はその手に“気”を宿し、目の前に防御壁を形成させる。
 そして間一髪の差で先生の衝撃が彼の作り出した防御壁に激突し、威力を失った。
 それから先生はすぐに拓巳から視線を別の場所へと移すと、おもむろに身を翻す。
 それと同時に、いつの間にか距離をつめていた祥太郎と健人の拳が空を切った。
 二人掛かりの攻撃をかわした先生は、一旦彼らから距離を取るために背後へと飛ぶ。
 だがその動きをあらかじめ読んでいた准の掌から、いいタイミングで“気”の衝撃が放たれた。
 鳴海先生はその手に“気”を漲らせて衝撃を繰り出し、准のものにぶつけて相殺させる。
 刹那、激しい轟音が響き渡り、“結界”内に余波が発生する。
 鳴海先生は体勢を整えつつもふっと息をつく。
 夏休み前――鳴海先生は父親である傘の紳士に、少年たちの指導を頼んでいた。
 詩音の別荘で合宿を行うことも、事前に詩音を含めた鳴海一族の打ち合わせ通りだったのである。
 たまには訓練方法を変えることで、新たに少年たちが何かを得ればいいと。
 父の普段の言動は理解不能な先生であったが、“能力者”として指導者としての彼の手腕はよく知っている。
 なので先生は敢えて紳士に少年たちの指導を任せたのだった。
 その甲斐あってか、ワンパターンになりがちだった少年たちの動きも少し幅が広がっていて。
 基本的な能力も、各々それなりの進歩がみて取れる。
 そう冷静に判断しながらも、鳴海先生は体勢を整えた。
 確かにこの夏休み、少年たちなりに努力して力をつけてきてはいるが。
 だがその力は、まだ未熟である。
 これからも彼らには、もっと今以上の力をつけてもらわなければ困る。
 そして、来るべき時が来たら……。
 ――その時だった。
「!」
 まだ余波が晴れない中、鳴海先生はハッと顔を上げる。
 少年たちが示し合わせたように、先生の周囲を囲むようにそれぞれ分かれて位置を取っていたのだった。
 それから一斉に彼らの掌から、先生目掛けて“気”の衝撃が放たれる。
 先生は跳躍してそれらを避けようと、グッと足を踏み込む。
 だが――その瞬間。
「……!」
 おもむろに地面からヌッと腕が伸びたかと思うと、先生の足首をしっかりと掴んだ。
 詩音の“空間”が、咄嗟に攻撃をかわそうとする先生の動きを封じたのである。
 先生は跳躍することを諦め、すかさずその身に強大な“気”を纏う。
 そんな先生に、少年たちの繰り出した光の筋が四方八方から襲い掛かった。
 刹那、今までで一番大きな衝撃音が周囲に轟き、耳を劈く。
「よっしゃっ、やったか!?」
 確かな手ごたえを感じ、拓巳は再び立ちこめた余波に目を凝らした。
 跳躍して避ける以外、4人掛かりの攻撃をかわす方法はない。
 だがそれも詩音の“空間”によって制限されたため、衝撃は間違いなく先生を捉えたはずである。
 健人はブルーアイを細め、状況を把握しようと一歩足を踏み出す。
 祥太郎と准は慎重に身構えたまま、余波が晴れるのを待った。
 だが、あんなに強く感じていた先生の“気”は、今は感じない。
 手ごたえがあったのは確かであるし、もしかしてあの先生に一矢報いることができたのだろうか。
 少年たちがそう、一瞬気を緩めた――その時。
「……!」
 今まで周囲の“空間”を支配していた詩音は、ハッとブラウンの瞳を見開いた。
 それと同時に、“結界”内に張り巡らされていた彼の“空間”が音を立てて破られる。
「な……っ!」
 少年たちはバッと“気”を漲らせ、体勢を整える。
 だが、それも遅く。
「!!」
 今までとは比べ物にならない強大な光が弾け、空気をビリビリと震わせる。
 そして少年たちは、いきなり襲ってきた複数の衝撃に防戦一方になった。
「この程度で終わりか? 話にならん」
 余波が晴れたその場には、表情ひとつ変えずにそう言い放つ鳴海先生の姿があった。
 先生は、少年たちの衝撃が届くその直前に。
 “気”を集中的に集め、自分の周囲を取り囲むような強固な防御壁を張っていたのである。
 鳴海先生はさらに掌に光を纏って衝撃を放ち、少年たちに攻撃をさせる隙を与えない。
 少年たちは必死に容赦ない攻撃に対抗しながらも、先生に負けじと“気”を漲らせたのだった。
 ――そして、“結界”の外では。
 息子の行っているテストの状況を微笑ましく見つめながらも、傘の紳士はブラウンの瞳をふっと細める。
「将吾だからさっきの騎士たちの攻撃が防げたけど。なかなか騎士たちも、よくあの将吾相手に頑張っているね」
 紳士のその言葉に、眞姫はどうなることかとドキドキしながらも彼らを見守った。
 それから心の中で少年たちを応援しつつ、改めて思ったのだった。
 ひとりひとりの気持ちと動きがピタリと揃えば、それは何倍ではなく、何乗もの大きな力に変わるのではないか。
 目の前の少年たちには、その可能性が秘められていると。
 眞姫はそう強く感じたのだった。
 そしてそんな少年たちの頑張りに、自分も負けていられない。
 “浄化の巫女姫”としてまだ自分は未熟だし、思うように“気”も操れないけど。
 自分を守ってくれる彼らの気持ちに、今まで以上に応えていこうと。
 眞姫は“結界”内の戦況を見つめながら、そう決意を新たにしたのだった。






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