第三章 天翔ける神獣



 第16話 違和感

 ――次の日の朝。
 学校に登校してきた和奏は靴箱を開け、ふうっとひとつ息を吐いた。
 何だか、少し体がだるい気がする。
 そう感じて額に軽く手を添えた後、和奏は靴を履き替えて靴箱を閉めた。
 その時。
「あっ、司紗くん。おはよう」
 ふと振り返った和奏の目に飛び込んできたのは、登校してきた司紗の姿だった。
 司紗はそんな和奏に漆黒の瞳の瞳を向け、ふと表情を変える。
 それから、言ったのだった。
「和奏ちゃん……昨日、何かあった? 大丈夫?」
「えっ?」
 司紗のその言葉に、和奏はきょとんとする。
 司紗は真剣な面持ちのまま、続けた。
「顔色もよくないし、体調悪そうだなと思って。それに……」
「それに?」
 小首を傾げる和奏の様子を見て、司紗は何かを考える仕草をする。
 そして小さく首を振ると、普段通りの柔らかな微笑みを向けた。
「ううん、何もなかったらいいんだ。でも、何か異変があったらすぐ僕に言ってね」
「うん、ありがとう、司紗くん」
 大好きな司紗に優しい言葉をかけてもらい、和奏は身体のだるさを少し感じながらも嬉しそうに頷く。
「…………」
 司紗はさり気なく、ちらりとそんな和奏に目を向けた。
 そして、ふっと漆黒の瞳を細めたのだった。
 そんな彼の目線にも気がつかず、和奏はもう一度呼吸を整える。
 確かに、あまり今日の体調は思わしくないみたいだが。
 学校を休んだり、保健室に行くほどのものでもない。
 司紗にも、余計な心配をかけたくないし。
 そう思い、和奏は身体の不調を彼に言わなかった。
 和奏は靴を履き替えた司紗とともに、教室へと歩き出した。
 そして、ちょうど階段の踊り場にさしかかった……その時。
「おい、和奏」
 ふと背後から、自分を呼ぶ声がする。
 和奏よりも先に振り返り、司紗は声の主・雨京先生に、鋭い視線を向けつつ言った。
「おはようございます、雨京先生」
 先生は相変わらず挑戦的な司紗の様子に気に食わない表情を浮かべてから、すぐさま和奏に切れ長の瞳を移す。
 そして、こう言ったのだった。
「おい、おまえ。昨日何かあったのか?」
「えっ?」
 先ほどの司紗と全く同じことを訊かれ、和奏は驚いた表情を浮かべる。
 それから、記憶の糸を辿ってみた。
 昨日1日何があったか、少し考えた和奏だったが。
 やはり、特に何もなかった気がする。
 なのに、司紗にも先生にも同じことを訊かれるなんて。
 どうしてそう訊かれるのか心当たりがない和奏は、不思議そうに首を傾げた。
 雨京先生はそんな和奏につり上がった瞳を向けたまま、こう言葉を続ける。
「何もなけりゃ、別にそれでいい。それから、今日の昼休み国語教室へ来い。分かったな」
 それだけ言うなり、先生はふたりにくるりと背を向けた。
 そして、職員室へと歩き出そうとする。
 険しい表情をした司紗は、そんな先生を咄嗟に呼び止めた。
「雨京先生」
 先生はその声に、面倒臭そうにふっと振り返る。
 先生が足を止めたのを確認した後、司紗はゆっくりと口を開いた。
「彼女の不安定な霊気に気がついているのに、それでも和奏ちゃんを自分のそばに置いておく気ですか?」
「あ? ガタガタうるせーんだよ。それに今は不安定でも、じきに慣れる。慣れるまでの過程で、不安定な時期だってあるだろうが」
「慣れるまでに、身体にかかる負担がどれほどのものなのか……それを、分かってるんですか?」
 司紗はキッと先生を睨み、そう言葉を投げる。
 和奏はふたりが何のことを言っているのかよく分からず、瞳をぱちくりさせた。
 詳しいことは分からないが、どうやら自分のことを話しているようではあるが。
 雨京先生はじろっと司紗に視線を向け、チッと舌打ちする。
「うるせーって言ってるのが聞こえないのか、白河? 何なら力ずくで黙らせるぞ、コラ」
「いいですよ、その時は返り討ちにしてあげますから、先生」
「ったく、和奏と約束してなかったら、ソッコーでぶっ殺してやるところだけどよ」
 ブツブツそう言った後、先生はふっと一瞬和奏に目を移す。
 急に先生に見つめられて、和奏はドキッとしてしまう。
 雨京先生はそんな和奏から司紗に目線を再び変えた後、ゆっくりと言った。
「とにかく、和奏はこの俺の女だ。俺の女が俺に尽くすのは当然だし、自分の女は自分で守る。白河、おまえは引っ込んでろ」
 それだけ言って、雨京先生はスタスタと歩き出す。
 和奏は先生の後姿を見送った後、隣で複雑な表情を浮かべている司紗を見た。
 そして、遠慮気味に彼に訊いたのだった。
「ねぇ、司紗くん。どうして司紗くんも先生も、私に昨日何かあったか訊いたの?」
 和奏の問いに、司紗は一瞬言葉を切る。
 それからふっと一息ついて、口を開いた。
「今日の和奏ちゃんの霊気が、いつもよりも余計に不安定だったからだよ。昨日、何かその原因になるようなことがあったのかなって思って。和奏ちゃんは普通の人より強い霊感を持っているから、大きな妖気の影響を人一倍受けやすいんだ。術師でもない普通の人はそんな霊気が不安定な状況に慣れてないから、体調を崩したり眩暈を起こしたりするんだよ」
「霊気が、不安定な状況……」
 和奏はそう呟き、ふと俯いた。
 自分では、自分の霊気が不安定な状態だということは分からない。
 だが最近、確かに身体のだるさを感じたり、たまに軽い眩暈を起こすこともある。
 その理由が先生の強大な妖気にあると、司紗は言っているのだった。
 何かを考えるように俯いたままの和奏に、司紗は言葉をかける。
「和奏ちゃんは、もうこれ以上雨京先生に近づかない方がいいよ。じゃないと、和奏ちゃんの身体がそのうち持たなくなるかもしれない」
 それから司紗はふっと表情を変え、はっきりとこう続けた。
「僕が術師として、妖狐である先生を滅するから」
 和奏はその言葉に、大きく首を振った。
 そして司紗を見つめ、口を開く。
「司紗くん、私は大丈夫。だから、先生と戦ったりしないで」
「和奏ちゃん、でも」
「いいの。本当に無理な時は、ちゃんと司紗くんに言うから」
「…………」
 司紗は一生懸命自分に頼む和奏を見て、口を噤む。
 それから、ふっと小さく嘆息して頷いた。
「少しでもおかしいなって思うことがあったら、僕にすぐ知らせて。くれぐれも、無理はしないでね」
「うん、無理はしないから」
 和奏は司紗の言葉を聞いて、少しホッとした表情をする。
 憧れの司紗はもちろん、雨京先生にも怪我なんてして欲しくない。
 そう、和奏は思っていた。
 自分が言うことを聞かなければ先生は怒るだろうし、司紗とも戦うことになるかもしれない。
 まだ体調の変調は軽いし、それが本当に先生の妖気のせいであるか定かではないし。
 それに先生は、自分のことを守ってくれると約束してくれている。
 逆らわなければ、悪いようにはしない、と。
 その言葉を、和奏は信じようと思っているのだった。
「あ……予鈴、鳴り始めちゃったね。教室に行こう、司紗くん」
 朝のホームルーム5分前の予鈴が鳴り始めたのを聞いて、和奏は教室に向けて歩き出す。
 司紗もそんな彼女に並んで歩きながら、ふっと漆黒の瞳を伏せた。
 自分は術師で、妖怪から人間を守ることが使命である。
 それなのに、先生が強大な妖力を持っている妖狐であるということもあるが、実際今は和奏に無理をさせてしまっている状況である。
 彼女に申し訳なく思うと同時に、司紗はそんな現状を歯痒く思うのだった。
「和奏ちゃん」
 司紗はふと顔を上げ、綺麗な瞳を和奏に向ける。
 そしていつものように上品な顔立ちに優しい笑みを宿してから、こう言ったのだった。
「和奏ちゃんさえよかったら、今日一緒に帰ろう」



 その日の昼休み。
 雨京先生に呼ばれていた和奏は、例の如く国語教室にいた。
「あ、あの……雨京先生」
「何だ」
 雨京先生は相変わらず淡々と、そう短く答える。
 いつも通り二人分のお茶を淹れていた和奏は、ちらりと背後を振り返った。
 それから、言いにくそうに口を開いたのだった。
「あの、お茶、このままじゃ淹れられないんですけど……」
「んじゃ、茶は後でいい」
「後でいいって……」
 和奏はどうしていいか分からないような表情で、自分を背後から抱きしめている先生を見る。
 雨京先生はギュッとさらに強く和奏を抱いた後、わざと彼女の耳に息を吹きかけるように言った。
「茶は後でいいって言ってんだ。聞こえなかったか?」
 吐息が耳をくすぐり、ゾクッと鳥肌が立つような感覚を覚える。
 そして気がつけば、先生の整った顔がすぐ間近に迫っていた。
 和奏はドキドキと胸の鼓動を早めながら、顔を赤らめる。
 もう、何度こういう状況になったか分からないのに。
 雨京先生の視線には、一向に慣れない。
 彼に見つめられていると思っただけで、心拍数が途端に上がるのだった。
 確かに言動は自己中心的で、有無を言わせない俺様体質の先生だが。
 でも自分を抱きしめる先生の体温はあたたかく、与えられるキスはとても優しい。
 和奏はカアッと体温が高くなるのを感じながら、恥ずかしそうに俯いた。
 ていうか、それにしても。
 茶は後でいいって……一体、何の後でいいと言ってるんだろうか。
 ふとそう疑問に思った、次の瞬間だった。
 雨京先生は和奏の腕を掴むと、自分の方へ彼女の身体を向かせた。
 そして大きな手を、おもむろにスッと上げる。
 またいつものように、キスされるのだろうか。
 そう思った和奏であったが。
「……え?」
 思わず驚いたようにそう声を上げ、和奏は目の前の先生を見つめた。
 掲げられた先生の手の行方は、和奏の予想と違ったのである。
 先生の大きな手が、そっと彼女の前髪を上げる。
 そして先生は、自分の額を彼女の額にぴたりと合わせたのだった。
 薄っすらと伏せられた先生のまつ毛は驚くほどに長く、綺麗な瞳にふわりとかかっていた。
 先生の額のぬくもりが自分の体温と混ざり合うような、そんな感覚。
 今までにない先生の意外な行動に、和奏はドキドキしながらも言葉を失う。
「…………」
 そんな和奏の気持ちも知らずに額をつけたまま、先生は何かを考える仕草をした。
 それからブラウンの瞳をゆっくりと開いてようやく額を離すと、パチンと和奏の額を軽く叩いたのだった。
「……っ、な、何っ」
 力が入っていなかったために痛くはなかったが、急に額を叩かれた和奏は驚いた表情をする。
 先生はそんな和奏の反応を見て、悪戯っぽく笑った。
「何アホ面してんだ、おまえ」
「あ、アホ面って……っ」
 先生がいきなり叩くから、驚いたんじゃないか。
 そう和奏が思った――次の瞬間。
 雨京先生はふっと口元に笑みを浮かべた後、和奏の身体を自分の胸に引き寄せる。
「……何だよ、思ったより元気そうじゃねーか。早くこの俺の妖気に慣れろ」
 ぎゅっと和奏を抱きしめ、先生はそう呟いた。
 彼の広い胸に身体を預ける体勢になり、和奏は強大な黄金の妖気を全身で感じる。
 それに、その言葉。
 もしかして霊気が不安定な自分のことを、先生は心配してくれたんだろうか。
 和奏は顔を真っ赤にさせながらも、ふと先生を見上げた。
 そんな和奏の視線に気がつき、雨京先生はニッと笑みを浮かべる。
「何だ? キスでもして欲しいのか?」
「えっ!? っ、ん……っ」
 先生はスッと和奏の顎に手を添えると、彼女の唇にそっとキスを落とした。
 柔らかいその唇の感触に、和奏はカアッと身体が熱くなるのを感じる。
 そして突然与えられた先生の口づけを受け入れながら、改めて思ったのだった。
 やっぱり先生のキスは……甘くて優しい、と。
 羽のように軽い口づけを和奏に与えた後、先生はぽんっと彼女の頭に手を添える。
 それから和奏から離れ、言ったのだった。
「あー腹減った。飯食うぞ」
 そう言って先生は、スタスタと自分の席へと戻っていく。
 和奏は瞳をぱちくりさせてから、ふと我に返った。
 そしてすっかり濃くなった急須のお茶を湯呑みに注ぎ、呼吸を整えるようにひとつ息を吐いた。
 特に優しい言葉をかけられたわけではないし、もしかしたら、勘違いかもしれないけれど。
 何気に自分のことを心配してくれているようである先生の言動が、和奏には嬉しかったのだった。
「先生、お茶どうぞ」
 コトンと先生の前に湯呑みを置いて、和奏はにっこりとその顔に笑顔を宿す。
 先生はそんな和奏に対して相変わらず何も言う様子もなく、ゴクゴクとお茶を口に運んだ。
 和奏は黙々と昼食を取り始めた彼にもう一度微笑んでから、そして自分のお茶をひとくち飲んだのだった。



 ――その日の、放課後。
 和奏は緊張しつつも、幸せそうな表情を浮かべていた。
 そんな和奏の隣には、彼女の憧れである司紗の姿がある。
 以前も一度、彼と一緒に下校した和奏だったが。
 有り得ないくらい早い鼓動を刻む心臓の音が、司紗に聞こえるのではないか。
 そう思ってしまうほど、和奏の気持ちは高ぶっていた。
 そんな自分の気持ちを、司紗は全く知らない。
 でも、それでも和奏は構わなかった。
 高嶺の花である司紗と、こうやってふたりで下校できるだけでも十分幸せだから。
 そう思いながらも、司紗との会話を楽しみながら、和奏は校門を出て彼とともに駅へと進路を取った。
 その時。
「あ……」
 何かを思い出したように、和奏は顔を上げる。
「どうしたの、和奏ちゃん?」
 司紗は漆黒の瞳を彼女に向け、小さく首を傾げた。
 和奏はそんな司紗を見て、ゆっくりと口を開く。
「そういえば、思い出したの。昨日、ちょっと変わったことあったんだった」
「え?」
 司紗はふと、その表情を変えた。
 そんな自分の言葉を聞いて真剣な顔をしている彼の様子に気がつき、和奏は慌てて首を振る。
「あ、いや、そんなに大したことじゃないよ。何かね、不思議な雰囲気の男の子と会ったんだ」
「不思議な雰囲気? それって、妖気とかじゃなくて?」
「うん、先生みたいな妖気とかじゃなかったよ。それにその人、私の知ってる誰かに似てるって思ったんだよね……」
 首を捻りつつ、和奏は昨日のことを思い出してみる。
 昨日、児童公園で会った不思議な美少年。
 確か彼は、五十嵐聖と名乗っていた。
 人を安心させるような微笑みが宿るその顔は、驚くほどに綺麗で。
 不思議と、知っている誰かものと似ている気がしたのだった。
 そして……聖の話題が出た、まさにその時。
「和奏ちゃん、こんにちは」
 突然、空気のように澄んだ声が聞こえる。
 和奏はふと振り返り、驚いたように瞳を見開いた。
 そこにいたのは。
「あっ……聖くん!?」
 和奏の目の前には、まさに今話題にしていた少年・聖の姿があったのだった。
 司紗も振り返り、現れた聖に目を向ける。
「さっき話してた彼だよ。昨日会った、五十嵐聖くん」
 和奏は司紗にそう言って、彼を紹介した。
 聖はにっこりと和奏に微笑み、そして口を開く。
「あ、もしかして、和奏ちゃんの恋人とか?」
 ブラウンの澄んだ瞳を司紗に向け、聖は和奏にそう訊いた。
 その言葉に、和奏は顔を真っ赤にさせて慌てて首を振る。
「えっ!? こ、恋人!? ううん、彼はクラスメイトの司紗くんだよ」
「ふーん、そっか。和奏ちゃんのクラスメイトね」
 そう言って、聖は再び司紗に目を移した。
 そしてスッと手を差し出し、言ったのだった。
「僕、五十嵐聖っていうんだ。この辺は来たばかりで、友達も和奏ちゃんくらいなんだよ。よろしくね、白河司紗くん」
 聖は美形の顔に、にっこりと屈託のない微笑みを宿す。
 その言葉を聞いた司紗は、ふっとおもむろに漆黒の瞳を細めた。
 それから差し出された聖の手を取り、穏やかな笑顔を聖に返す。
「こちらこそ、よろしく」
「それにしても、驚いたよ。また聖くんに会えるなんて」
 和奏は聖を見つめ、ぽつりとそう呟く。
 そんな和奏の言葉に、聖は楽しそうに笑った。
「言っただろう? また近いうちに会おうって。その通りこうやって会えたんだ、何も不思議はないよ」
 聖と会うのは、まだ今日で二回目であるが。
 本当に目の前の彼は、不思議な雰囲気を持っている。
 改めてそう感じ、和奏はまじまじと聖の美形の顔を見つめた。
 それから聖は和奏に優しく微笑むと、手を振りながらスタスタと歩き出す。
「じゃあ、もう行かなきゃ。また会おうね、和奏ちゃんと司紗くん」
「え? あ……うん、またね」
 あっさりと去っていく聖にきょとんとしながらも、和奏は彼に手を振った。
 司紗はそんな聖の後姿を黙って見送り、何かを考える仕草をした。
 和奏の言うように、聖から妖気などは特に感じなかったのだが。
 司紗は聖と会った瞬間、違和感のような何かを本能的に感じていたのだった。
 聖は一度だけ振り返り、和奏に優しく微笑みかける。
 それから、街の雑踏の中へと姿を消した。
 和奏は自分に向けられた聖の笑顔に胸の鼓動を早めながらも、ふとあることに気がつく。
 そして顔を上げ、司紗に言ったのだった。
「あ、さっき、聖くんが誰かに似てるって言ってたでしょ? それが誰だか、分かったよ」
「誰に似てるの?」
 司紗は漆黒の瞳を和奏に戻し、彼女に訊いた。
 その問いに、和奏はちらりと司紗に視線を向ける。
 そして遠慮気味に、こう言ったのだった。
「綺麗な顔の作りとか、あの優しそうで穏やかな笑顔が……司紗くんに、似てるなって」
「えっ、僕?」
 思いがけない和奏の言葉に、司紗は少し驚いたような顔をする。
 和奏は小さく頷くと、もう一度聖の美形の顔を思い出した。
 それから、隣の司紗をじっと見つめる。
 瞳と髪の色は全く違うが、どちらも上品で穏やかな印象の容姿を持っていると。
 そう、和奏は気がついたのだった。
 そして改めて今自分のすぐそばに司紗がいるんだと再認識し、嬉しそうな表情を浮かべながらも照れたように俯いたのだった。