Sacred Blood 七夕企画





 プリントを提出し終わった眞姫は、職員室を出て2年Bクラスの教室へと戻っていた。
 眞姫は窓の外に視線を向け、うーんと考える仕草をする。
 窓の外は太陽が照りつけて暑いくらいであったが、たまにその光が雲によって遮られることもあった。
「今日、天の川見れるかな……」
 ふと立ち止まり、眞姫は窓越しから空を見上げて呟いた。
 その時。
「姫、どうしたの?」
 ふと背後からそう呼び止められ、眞姫はふっと振り返る。
 そして、声を掛けてきた少年・准に言った。
「あ、准くん。今日って七夕でしょ? 夜、天の川ちゃんと見えるかなって」
「そうだね、今日は7月7日だもんね」
 眞姫の言葉にコクンと頷き、准は知的な顔に微笑みを浮かべた。
 それから窓の外に目を移し、言葉を続ける。
「今日、天の川見えるといいね。晴れてはいるけど雲が多いから、心配だよ」
「うん。せっかく織姫とひこ星が会える日なのに、天の川がかからなかったら可愛そうだもんね」
「そうだよね、一年に一度だからね」
 眞姫らしいロマンチックなその言葉に、准はにっこりと笑って頷く。
 眞姫はそんな准に向き直り、そして彼に訊いた。
「ねぇ、准くん。准くんがもし、ひこ星だったらどうする? 好きな人と、一年に一回しか会えなかったら」
「好きな人と、一年に一度しか会えなかったら?」
 眞姫の問いに、准は少し考える仕草をする。
 それから、彼女の質問に答えた。
「一年に一度しか会えないのはすごく寂しいけど、その分会った時の嬉しさは大きいからね。それを支えに、天の川に橋がかかる日を待つよ。会えない一年も、会えるこの一日があるから頑張れるし、それにふたりの気持ちはずっと繋がっているからね」
「そうだね、離れていても気持ちが繋がっていれば、それがお互いの支えになるよね」
「でも、一年も好きな人と離れているなんて、僕はいやだな……」
 そう呟き、准は優しい視線を隣の眞姫に向ける。
 眞姫は准の言葉に頷いてから、口を開いた。
「そうだね、いつでも好きな人の近くにいたいって思うよね。織姫とひこ星も、きっとそう思ってるんだろうな」
「うん、きっとそう思ってるよ。僕は好きな人のそばにいて、好きな人のことを守ってあげたいってすごく思うから。ひこ星だって、同じ気持ちなんじゃないかな」
 准はそう言って、眞姫を真っ直ぐにじっと見つめる。
 眞姫はそんな准の視線に気づかす、栗色の髪を小さく揺らした。
「何だか、准くんらしいけど准くんらしくないな」
「え?」
 眞姫の意外な言葉に、准は小首を傾げる。
 眞姫はそんな彼に目を向け、続けた。
「あっ、悪い意味じゃなくてね、いい意味で。准くんって現実主義っぽいかなって思ってたんだけど、ひこ星の気持ちまで考えるなんて、ロマンティストなところもあるんだね。でも、すごく優しいものの考え方はやっぱり准くんだなって」
「ひこ星の気持ちっていうよりも、僕の正直な気持ちなんだけどね……」
 眞姫に聞こえないくらいの声でそう呟き、准はふっと一息ついた。
 それから気を取り直し、太陽が顔を出している空を見上げる。
「天の川、見れたらいいね」
「うん。天の川見れたら、願い事も叶えてくれるかな」
 楽しそうに笑う眞姫に微笑みを返し、そして准は大きく首を縦に振った。
「きっと、願いを叶えてくれるよ」
 その時、准は思ったのだった。
 自分の願い事は、たったひとつ。
 ずっと彼女のそばで、彼女のことを守ってあげられますように――と。