Type-S




「……っつ!!」
 身体中をはしる激痛で、俺は目が覚めた。
 ドクンドクンと、全身が脈を打つ。
 俺は身体中を駆け巡る痛みに、ギリッと歯を食いしばった。
 身体が、全く言うことを聞かない。
 しばらくの間、自分がさっきまで何をしていたか、今の状況がどうなっているのかなんて考える余裕がなかった。
 そしてようやく激痛の波がいくらか和らいだ、その時。
 俺は、俺をじっと見つめている切れ長の瞳にようやく気がついたのだった。




「いつまで寝ているつもりだ? 拓巳」
 静かなバリトンの声は、相手に有無を言わせない程威圧的で。
 俺はそんなヤツのそういう態度が、昔から気に食わない。
「くっ……いつまでも寝てなきゃいけない状態にしたのは、どこの誰だよっ」
 ――思い出した。
 今は、鳴海の指導という名のしごきを受けている最中で。
 そして容赦のないヤツの攻撃をくらって、どうやら気を失っていたらしい。
 いつかはぎゃふんと言わせてやると意気込んではいるが……何せ、ヤツの強さは半端じゃない。
 昔から、何度コイツに死ぬ目に合わされたことか。
 キッと鋭い視線で睨みつける俺に冷めた視線を向け、鳴海は言った。
「この程度で、もう根を上げたか? 相変わらず口ほどにもないヤツだ」
「んだとっ!? もう一回言って……!?」
 鳴海の言葉に頭にきた俺がヤツにくってかかろうとした、その時。
 俺は、異変に気がついた。
「なっ、何だよ!? これはっ!」
 今まで激痛に気をとられて、気がつかなかった。
 俺の両手両足が、真っ赤な紐で縛られていたのだ。
 身動きが取れずもがく俺を見て、鳴海はふっと笑みを浮かべる。
「どうだ? 身体の自由が利かない気分は」
「どうってなっ、こっちがどういうことか聞きたいんだよっ!」
 鋭い視線を投げて怒鳴る俺に、鳴海は相変わらず表情を変えずに言った。
「どういうことか、だと? 決まっているだろう、私の趣味だ」
 その時俺は、鳴海の言葉が理解できなかった。
 だが。
「は? おまえ、何わけの分かんねーこと言って……っ!!」
 その時。
 鳴海のとったその行動に、俺の思考はしばらく停止した。
 ゆっくりと鳴海の顔が近付いてきたかと思うと。
 ヤツの唇が、俺の唇と重なったのだ。
 そして数秒後、ようやく我に返った俺は、身体の自由が利かないなりに必死に抵抗する。
 ジタバタ暴れる俺から、ようやくヤツの唇が離れた。
「おっ、おまえっ!! なっ、なっ何しやが……ぐっ!!」
 次の瞬間、腹部に重い衝撃がはしる。
 ドスッと鈍い音がしたかと思うと、ヤツの拳が的確に俺の無防備な腹部を捉えていた。
「かはっ……くっ、何を……っ」
 その衝撃の大きさに耐えられずに顔を歪める俺をその切れ長の瞳で見つめて、ヤツは言った。
「大人しくしろ、これからが本番だ」
 本番って何のだよ! と言おうとした俺だったが、その言葉が発せられることはなかった。
「! ん……っ!」
 再び、鳴海の唇が俺の口を塞ぐ。
 だがその口づけは、さっきのものとは違っていた。
 ゆっくりとした口づけではなく、今度は強引に舌を滑り込ませてくる。
 ねっとりとして……それでいて、激しい。
「あっ、んん……」
 何も抵抗できない俺は容赦なく侵入してくるヤツの舌使いに、思わず息を荒げてしまった。
 なっ、何感じてるんだよっ、俺っ!!
 相手はあの鳴海だぞっ!?
 そう思い、自分を何とか保とうとする。
 だが身体の自由の利かない俺はヤツにされるがままシャツのボタンを外され、そしてあらわになった全身を容赦なく巧みな舌使いで攻められ、不覚にも正直に身体は反応してしまっている。
 しかも性格同様、ヤツは本当に嫌がらせにかけては天才的で。
 もう少しというところで、大事な部分には触れないのだ。
 押し寄せてくる快楽の波に身を投じたいという気持ちに傾く自分。
 だが俺は、かろうじて何とか必死でそれに堪えていた。
 ……と、その時。
 さんざん好き放題俺の身体を弄んでいた鳴海の動きが、ぴたりと止まる。
 そして何を思ったのか、鞄から何かを取り出しはじめた。
 そんな鞄から出てくるものを見て……俺は、血の気がスウッとひいていくのが自分でも分かった。
 それは数々の、本当にいろいろな種類の道具だったのだ。
 前々からサディスティックな傾向強い性格だって思ってたけど、ここまで徹底して趣味までサドだとは思ってなかったぞっ!?
 ていうか……。




「じょっ、冗談じゃねーぞっ!!?」
「……それはこっちの台詞だ」
 ガバッと身体を起こした俺の目に映ったのは……やはり切れ長の瞳を俺に向ける、鳴海の姿。
 だが。
「そんなに私の授業が冗談じゃないものか? 居眠りとは、随分と余裕だな。次回のテストを楽しみにしているぞ」
 わざとらしく溜め息をついて、鳴海は俺から視線を外して持っている教科書に目を移した。
 相変わらず嫌味爆発なその台詞に顔を顰めてから、俺は机に頬杖をつく。
 だがそれと同時に、俺はホッと胸を撫で下ろした。
 さっきのは、夢か。
 ぽかぽかと春の陽光が差し込める窓側、しかも昼食後の5時間目。
 眠くならない方がおかしい。
 でも、なんで、あんな夢っ!?
 しかも、よりによって鳴海かよ!?
 そう思っていた、その時。
 ふいに隣からシャーペンで腕を突付かれ、思わずビクッと身体を震わせる。
 ドキドキと早い鼓動を刻む胸に手を当て、俺は隣の席の祥太郎に視線を向けた。
「おはようさん、たっくんっ。随分と気持ち良さそうに寝てたなぁ」
「う、うるせーよっ! 誰が気持ちよくなんかっ」
「ふーん、気持ちいい夢見てたんやぁ、たっくんっ。で? どんな夢やったんかなー?」
 ニッと笑みを浮かべる祥太郎を、俺はキッと睨みつける。
 ていうか、口が裂けても言えねーよっ!!
 しかも、なまじあの鳴海だ。
 何だか妙に現実味があるカンジで、めちゃめちゃブルーだ。
 いやブルー通り越してダークブルー、もうブラックな気分だぜ……。
「おっ? 何か顔が赤いで? 拓巳っ」
「ざけんなよっ、だーれが顔が赤いってっ!?」
 ムキになって思わず少し大きめに声を出してしまった俺に、鳴海はじろっと目を向けて言った。
「居眠りの次は私語か? 随分といい態度だな」
 ゆっくりだが、威圧的なその口調。
 夢のことを再び思い出し、俺は再びブルーになる。
 ていうか確実にコイツ、サディスティック以外のナニモノでもないからな、マジで。
 でも、何でよりによってあんな夢なんか見たんだ!?
 俺は改めてそう思い自己嫌悪に陥りながら、深々と溜め息をついたのであった。

 

FIN




あとがき。


あわわっ、ごごごごごめんなさいー!!(叫)
何気に、なるちゃんと拓巳だったらどんな感じになるんやろーとか軽い気持ちで書いたら‥。
先生、ただの変態やんけっ!!(爆)
ていうか、これは
マジで冗談です、ギャグですので誤解なさらないでくださいー!!
いやでも、なるちゃんって本当に超Sっぽいよね‥(激爆)
自分のキャラで最愛のなるちゃんを自分で穢してどーすんだ、私;
‥‥って、ああっ!石投げないでくださいーっ!!
本当に軽い冗談のつもりで書いたものなんで‥ひぃっ、許して;