キャラ投票御礼SS






「……夢、か?」
 清々しい、ある日の朝。
 普段と変わらず定刻ちょうどに目を覚ました私は、ふっと小さく息をつく。
 ――何だか、妙な夢を見た。
 夢の中で突然聞こえてきた天の声が、この私にこう命じたのだ。
『あ、鳴海先生。先日行なったキャラ投票の上位者に、インタビューをしてもらえませんか?』
 私はいきなりよく分からないことを言い出したその天の声に、こう問うた。
「キャラ投票とは? それに何故、よりによってこの私なのでしょうか。こういう役回りは、普通はヒロインがするものではないのですか? それに自分で言うのも何ですが、私がインタビュアーなど、面白みに欠けるものになるのでは?」
 そんな私の意見を全く気にかける様子もなく、天の声は暢気にこう答える。
『SBにもドロシーにも出てるのって、鳴海先生だけだし。じゃあそういうことで、よろしくお願いします』
 責任感皆無な様子で一方的にそれだけ言うと、そこで天の声は聞こえなくなった。
 そしてその意味不明な指令を最後に、私は目を覚ましたのだった。
 昨日眠りにつく直前にあの父と電話で会話したため、妙な夢を見ただけなのか?
 軽く頭を抱えつつそんなことを思いながらも、私はふと枕元に視線を移す。
 そして、大きく首を傾げたのだった。
 その理由は。
「……?」
 いつの間に、このようなものが?
 私は枕元にあったあるものを見つけ、それを手にした。
 そこに置いてあったのは……一枚の、書類。
 このようなもの、眠る前はなかったはずだ。
 そう思いつつも私は、その書類に目を通す。
「“SB&ドロシーキャラ投票、結果報告書”?」
 書類には私の見知った数名の者の名前が記されており、各個人の順位や得票数、そして投票者のコメントに加えて天の声自身のコメントまで記載されていた。
 この資料を元に、上位者にインタビューをしろと。
 そう、天の声は言っているのか?
 私は一通り内容に目を通した後、ふっと瞳を細める。
 そして、思ったのだった。
 どういうことかまだ不透明ながらも、これが天から私に与えられた何かの試練ならば、それを全うしてみせようと。
 そう決意した後、私は書類をファイルにしまい、そして出勤の支度を始めたのだった。




 ――私立・聖煌学園高校。
 午前中の授業も終わりを告げ、今は昼休みである。
 インタビューをするには、うってつけの時間だ。
 私は資料を手に、キャラ投票上位者の名前を確認する。
「キャラ投票1位は、健人か」
 そう呟き、私は見事キャラ投票で1位を獲得した健人の所在を探る。
 そして私の“空間能力”によると、どうやら健人は丁度タイミング良く、こちらの方向へと歩いてきているようである。
 その予想通り、数分も経たずして健人が職員室に入ってきた。
 彼が職員室で用事を済ませるのを待ちながら、私は再び書類に目を通しておく。
 それにしても、総投票数1323票とは。
 こんなに協力してもらえるなんて、天の声も驚きつつ有難く思っているようである。
 そのうちの166票が、健人に投じられた票か。
 全体の約12.5%が、健人の得票数ということになる。
 そう頭の中で計算していた私は、ふと顔を上げた。
 健人が職員室での用事を、どうやら済ませたようである。
 私は席から立ち上がり、彼に声をかけた。
「健人」
 私の呼びかけに応じるようにブルーアイを私に向け、健人はその足を止める。
 私は周囲をふと見回した後、とりあえず職員室を出た。
 職員室の中で学校関係の話以外の用件を伝えることは、どうかと考えたからである。
 健人は何事かと小さく首を捻ったが、私に続いて職員室を後にした。
「何だ?」
 周囲の人波が途切れたのを確認し、健人はそう口を開く。
 私は書類に目を落とし、用件を告げた。
「キャラ投票の結果、どうやらおまえが1位だったようだ。よって、今からインタビューを開始する」
「……は?」
 健人は蒼を湛える瞳を細め、金色に近いブラウンの髪をかき上げる。
 私はそんな健人には構わず、早速インタビューを始めた。
「おまえに寄せられたコメントで圧倒的に多いのは、“カッコイイ”というものだったようだ。これについて、おまえの感想を述べよ」 
「ていうか、一体何のことだ?」
「インタビュアーはこの私の方だ。おまえは、私の問いに答えればいい」
「……?」
 健人は首を傾げながらも、少し考えるように瞳を伏せる。
 確かに黙ってさえいれば、珍しい彼のブルーアイは神秘的で、金色に近い髪は日本人離れしている。
 容姿的には、いわゆる美形というやつなのかもしれない。
 それに健人は、あまり口数が多くはない。
 そのため、健人の本質が実はすぐにカッとなる負けず嫌いな性格だということも、一見すると分からないのだろう。
 そして容姿の印象も相まって、寡黙でクールというイメージが植えつけられるのだと推測できる。
 それが、世の乙女心をくすぐるのだろうか。
「何のことだか、よく分からない。それ、見せてくれ」
 しばらく考えていた健人は、私の持っている書類をふと覗き込み、一通り自分に寄せられたコメントに目を通す。
 それから、ぽつりと言った。
「これ見てもイマイチよく分からないけど……投票してくれた人には、感謝しているよ」
「“カッコイイ”の他には、“健気”や“一途”のようなコメントも寄せられていた。これについては、どう考える?」
「え? ……ああ、頑張ります」
「それだけか?」
「他に何か、言いようがあるか?」
 人のことは言えないが、愛想のないやつだ。
 いや、こいつのこういうところが、世の女性に“カッコイイ”と言われる所以なのか?
 私にはよく分からないが、健人らしいといえば健人らしい回答なのかもしれない。
 まぁ、良しとしよう。
 私はそのほかにインタビューのネタに使えるものがないか、書類に目を移す。
 そして、ある項目を見つけた。
 それは。
『天の声:ていうか、健人をめっちゃ見くびってました。アンタすごいよ。そういえば、美形だったし』
「……おまえ、天の声に見くびられていたようだぞ」
「?」
「まぁ、いい。最後に、おまえを支持してくれた読者へのメッセージを言え」
 健人は少し考えるようにブルーアイを細めた後、相変わらず表情を変えずに答える。
「これからも、頑張ります。ありがとうございました」
「それだけか?」
「他に何を言うんだ?」
「…………」
 人のことは全く言えないが、もう少し愛想良くできないものなのだろうか。
 作品の看板キャラと言っても過言ではない、栄誉あるキャラ投票1位というのに。
 それよりも根本的な問題として、このインタビューが果たして面白いのかどうか。
 そう、私が疑問に思った、その時だった。
 健人は視線を私から外し、ふと僅かに表情を変える。
 そして、言った。
「もう、いいか?」
 私はもう一度書類を見てから、首を縦に振った。
 健人は私が頷いたことを確認するやいなや、スタスタと歩き出す。
 そんな彼の、向かった先は。
「……姫」
「あ、健人」
 たまたま通りかかった清家を見つけた健人は、微妙にだが、珍しく嬉しそうな表情を浮かべた。
 単純というか、分かりやすいやつだ。
 それよりも、どうしていつも“空間能力者”でもないのに、健人は清家のことをすぐに発見できるのだろうか。
 そう思いつつも、私は健人に対するインタビューを終了させることにした。
 それから書類を確認し、次のターゲットの元へと向かったのだった。




 第2位は、全体の11.9%の得票数を得ているあの人である。
 私は再び職員室へと戻り、その人物に声をかけた。
「大河内先生」
「わっ、鳴海先生っ。何でしょうか?」
 キャラ投票で第2位だった日本史の大河内先生は、私の声にビクッと身体を震わせて振り返る。
 何故だか分からないが、大河内先生は私に声をかけられるといつも目が泳ぐ。
 高校時代からの後輩でもある彼は、私に対して昔から妙な固定観念を持っているようだ。
「大河内先生、ちょっとよろしいですか?」
「えっ!? な、何ですか?」
 眼鏡の奥の漆黒の瞳を大きく見開き、大河内先生は妙に姿勢を正して何度も瞬きをする。
 その様は、まるで生徒指導室に呼び出された生徒のようである。
 私は健人同様に彼を職員室の外へと連れ出し、インタビューを開始した。
「キャラ投票で、大河内先生が第2位だったようです。それで、インタビューをと」
「え? 僕がですか?」
 穏やかな印象の瞳をぱちくりさせ、大河内先生はきょとんとする。
「ええ。先生に圧倒的に多かったコメントは“可愛い”と。これについて、どう思われますか?」
「……可愛い、ですか」
 大河内先生はうーんとしばらく考えた後、無意識的にかけていた眼鏡を外した。
 外した眼鏡を何故だか着ている白衣の胸ポケットにしまうと、大河内先生はふっと一息つく。
 それから瞳と同じ色をした漆黒の前髪をかき上げ、口を開いた。
「ちょっとその書類、見せてもらえませんか? ……ていうか、豹変とかギャップとかプライベートバージョンとか、一体何のことだ?」
 書類を見ながら、そう大河内先生は小声でブツブツと呟く。
 その印象は、眼鏡をしている時と全く変わっていた。
 本人には自覚がないようだが、彼のこの有り得ない変わり様が、どうやら読者にうけているようだ。
「それにしても、可愛いって褒め言葉なのか? 1位の蒼井は“カッコイイ”で、あいつの教師の俺が“可愛い”ってどうなんだよ……那奈のヤツも、俺のこと散々小学生みたいとか言ってるしよ……」
 少し複雑な表情でそう独り言のように呟く大河内先生に、私は言った。
「私はあまり言われないのでよく分からないが、“可愛い”も一応褒め言葉ではないかと」
「そうですか? 何だか微妙に複雑ですけど……鳴海先生がそう仰るなら、そうかもしれませんね。あ、えーっと、ありがとうございます」
 そう言って、大河内先生はぺこりと頭を下げる。
 こういう妙に素直な態度が、年齢の割に可愛いといわれる所以ではないか。
 そう言おうと思ったが、本人は少し何か引っかかっているようなので黙っておいた。
 私は書類に目を向け、インタビューを続ける。
「その他には、“頑張れ”や“誤解されまくって頑張ってサイコー”とか“一番の被害者”とありますが」
「……それこそ褒め言葉なのか、かなり微妙じゃないですか?」
「多くの読者に応援されているということなので、いいことなのでは?」
「あ、言われて見ればそうかもしれませんね。応援、ありがとうございます」
 大河内先生は、結構単純で素直な性格のようである。
 私はそう分析しながらも、彼のインタビューの締めに入った。
「では大河内先生。最後に、投票してくれた読者に一言お願いします」
「投票してくれた方には、マジで感謝してます。ていうか、可愛いよりもカッコイイって言われるよう、那奈にも誤解されないよう、一層男を磨きます……」
「一応“カッコイイ”や“彼氏にしたい”というコメントもあるので、そう落胆することもないのでは」
「一応ですか……まぁ、俺の大人の魅力が発揮されるのは、これからなんですけどね」
「そうか。それは楽しみだな」 
 何気なく言った私の言葉に、大河内先生は疑いの眼差しを向ける。
「……本当にそう思ってます? 鳴海先生」 
「ええ。ただ君は、昔から何かと問題を起こす行動を取ることも多い。だが教育者としての意識を忘れなければ、私は大河内先生のプライベートに何も言うつもりはないですので」
「あ、教師という自分の立場と責任は、もちろん分かっています。ていうか、いつも何かいろいろすみません……鳴海先生」
 別に、謝られることをされた覚えはないのだが。
 そう思いつつも、私は大河内先生のインタビューを終了する。
 それよりも……本当にこの役は、私で適切なのだろうか?




 ――何気に2人にインタビューしただけであるが、思いのほか時間がかかってしまった。
 なので一度昼休みのインタビューは終了し、放課後まで待つことにした。
 次の上位者のことを考えると、それが効率がいいと考えたからである。
 そして帰りのホームルーム終了とともに、私はあるふたりの生徒に声をかけた。
「清家、准。話がある」
「え? あ、はい」
「話、ですか?」
 きょとんとしている清家と少し訝しげに首を傾げる准を、私は廊下へと促す。
 それから私は、ふたりに対してのインタビューを始めたのだった。
「先日行われたキャラ投票で、清家が149票で3位、准が148票で4位だったらしい。その結果について、おまえたちにインタビューする」
「キャラ投票?」
 ふたりとも何のことか分からない様子で、それぞれ首を傾げている。
 私は早々に任務を終えるため、早速質問を開始した。
「まず、清家。寄せられたコメントの多くは、“可愛い”もしくは“天然”というものだった。これについて、どう考える?」
「え? 何が可愛いんですか? それに、天然?」
 大きなブラウンの瞳をぱちくりさせ、清家は栗色の髪を揺らす。
 それから少し考えた後、ぽんっと手を打ってこう言ったのだった。
「あ、私、この間の土用の丑の日に、天然物のウナギ食べました。それにウナギイヌって、可愛いですよねっ」
「姫、それ何か違うと思うんだけど……それにウナギイヌって、可愛さがウリなの? むしろ、可愛さで売ってるキャラじゃないよね」
 すかさず柔らかくだが適切なツッコミを入れ、准は清家を諭すように小さく首を傾げた。
 確かに、どうして急にウナギやウナギイヌが出てくるのか、私には理解不能である。
 それ以前にウナギイヌとは、随分と古いキャラを出してきたな。
 読者の清家に対する“天然”というコメントは、かなり的を得すぎているかもしれない。
「あ、准くんはウナギ嫌い? 私ね、ウナギは好きだけど、アナゴはちょっと苦手」
「いや、僕もウナギは好きだよ、姫。でも、そういう問題じゃないような……それにアナゴとウナギって、あまり変わらない気がするんだけど」
 几帳面に再びツッコミを入れ、准はふっと嘆息する。
 今まで清家は、真面目で成績優秀な生徒だという印象が強かったが。
 彼女の口から出る言葉の論点がかなりずれていると思うのは、私だけではないはずだ。
 あまり話が横道にそれても仕方がないので、私は話を進めることにした。
「それでは、清家。応援してくれている読者に、何か一言言え」
「え? あ、いつも“Sacred Blood”を読んでくださって、どうもありがとうございます。一生懸命頑張りますので、どうか話の続きにもお付き合いくださいね」
 こういうところは、さすがヒロインというべきか。
 優等生というに相応しい言葉で締めてくれ、私も少なからずホッとする。
 そして私は、次に准に目を向ける。
「それで、次に准だが。おまえに対するコメントは“腹黒”“毒舌”“怒らせると怖い”“ツッコミが絶妙”“したたか”などがあるが」
 准はその私の言葉を聞き、わざとらしく大きく首を傾げた。
「え? 鳴海先生、それって僕のコメントじゃないんじゃないですか? ね、姫」
「うん、准くんって優しいし、怒ったところ見たことないもん」
「だよね、姫。それで先生、僕に対する本当のコメントは何ですか?」
 清家に柔らかな微笑みを向けてから、准は私にそう訊く。
 ……読者とは、よく見ているものなのだな。
 准の、目が笑っていないその笑顔を見て、私は読者の眼力の鋭さを思い知らされる。
 いや、ただ単に清家が気がついてないだけなのかもしれないが。
 あまりツッコんでも仕方ないので、私は構わず話を進めることにした。
「そのほかのコメントとしては、相原渚との会話についてのコメントも多かったようだが」
「相原くんとの会話? 僕、彼とそんな印象に残るような会話しましたか? 全然、全く覚えてないな。ごく一般的な、先輩と後輩の会話だと思うんですけど?」
「私は詳細は知らないが、そうアンケート結果には出ている」
「渚くんとの、会話?」
 清家は准を見つめ、不思議そうに口を開く。
 准はそんな清家ににっこりと微笑んだ後、すかさず話題を変えた。
「それで先生、そのほかのコメントは、どんなのがありましたか?」
「その他には……そうだな、お兄ちゃんにしたいや、相談できそうだとか、そういうものもあったな」
 准はようやく満足したように小さく頷いた後、その顔に穏やかな笑顔を作る。
「ありがとうございます。でも僕には勿体無いな、そんな言葉」
 私はそんな准にちらりと目を向け、インタビューの締めに入った。
「では最後に、有難い読者に一言メッセージを言え」
「これからも、姫や僕たちを応援してくださいね。僕は僕なりに、地味にでも精一杯頑張りますので」
 准が地味なキャラでは決して全くないと思うのは、私だけではないはずだ。
 そう思いながらも、私はふたりのインタビューを終了したのだった。




 ようやく4人の話を聞き終わり、私はふっと一息つく。
 さて、次は誰であろうか。
 そう思い、書類に目を落としたのだが。
 第5位は得票数112票で、誰でもないこの私であった。
 私はふと、もらったコメントに目を向ける。
 “悪魔”“クール”“大人”……なるほど、世間はこのように私を見ているのか。
 それにしても“悪魔”とは、よく意味が分からない。
 また、自分が“クール”だという意識もなければ、“大人”であるとも思っていない。
 私のどういうところが、このようなコメントを寄せられる要因になったのか、それはかなり興味深いことではあるが。
 とにかく、100票を超える投票があったのは本当に感謝している。
 読者とは、本当に有難いものだ。
 そしてそんな読者の好意に報いるよう、これからも精進していかねばならないな。
 まだまだ“能力者”に対する訓練もかなり手加減していることだし、そろそろ本格的に厳しく鍛える必要があると私も考えている。
 如何せん、訓練もつい甘くなってしまいがちだ。
 これから有難い読者の期待に応えるべく、ビシビシ厳しくしていこうと思っている。
 私は投票やコメントひとつひとつに感謝しながら、そう改めて思ったのだった。
 ……その時。
「あの、鳴海先生。数学のプリント、提出に来たんですけど……」
 そう遠慮気味な声が聞こえ、私はふと振り返る。
 そこに立っていたのは、2年Cクラスの今宮那奈という生徒であった。
 少し順番は狂ってしまうが、ちょうど良い。
 私は彼女の差し出す数学のプリントを受け取った後、彼女にこう切り出した。
「今宮。おまえはキャラ投票で95票を獲得し、第7位という結果だった。その件に関して、話を聞かせてもらおう」
「えっ? 何のことですか?」
 今宮は少しつり気味の瞳を数度瞬きさせ、首を捻る。
 私は資料に目を向け、インタビューを始めた。
「先日キャラ投票が行われ、おまえは第7位だったのだ。おまえへのコメントは、“かわいい”“一途”“夢見る少女”というものが多かった。あとは物語の進行上、大河内先生への誤解が解けたことに対しての“よかったね”というような言葉だな」
「え? あ……はい、すごく嬉しいです」
 少し照れたように俯き、今宮はそう答える。
 あまりこの今宮とは、今まで事務的な会話程度しか交わしたことがなかったのだが。
 キリッとした見た目の印象とは逆に、随分と中身は少女らしい性格のようだ。
 私はそう分析しつつも、彼女に対するインタビューを続ける。
「では“ドロシー”読者へ向けて、コメントを言え」
「コメントですか? 大河内先生と私の恋の行方を、あたたかく見守ってください。これからもいろいろなことがあるかもしれないけれど、一生懸命頑張ります」
 清家もそうであるが、とてもヒロインらしいコメントだ。
 私は満足したように頷きながらも、こう口を開く。
「私はおまえたちのプライベートに関しては、何も言うつもりはない。これからも今まで通り、恋愛だけでなく勉学も怠らずに励むように」
「あ、は、はい。じゃあ、失礼します」
 今宮はカアッと顔を赤くしながらもぺこりと頭を下げ、それからそそくさと早足で去っていった。
 大河内先生もそうであるが、逃げるように歩を進める今宮の様子を見ると、彼女も私に対して妙な固定観念があるのかもしれない。
 そう思いつつも私は、改めて書類に目を移したのだった。




 次は、一体誰だ?
 いやそれ以前に、キャラ投票上位者にインタビューしろと天の声からは言われているのだが。
 一体何位の者まで、インタビューをすればいいのか。
 上位と名がつくくらいであるので、上中下と3段階程度に分けられると判断していいのだろうか。
 そう考えると、エントリーは23名なので、8位程度までが上位にあたる。
 私はそう結論に達し、任務を遂行しようと歩き出した。
 先程順番を変えて7位の今宮に先にインタビューしたため、次は6位だった人物に話を聞かないといけないだろう。
 そう思い、私は第6位であった人物の気配を探る。
 そして職員室を出て、その人物の元へと向かったのだった。
 その、人物とは。
「祥太郎、おまえに話がある」
「うわっと、鳴海センセ! ていうか俺、何も悪いコトした心当たりないんですけど……?」
 何かこいつは、私に後ろめたいことでもあるのか?
 何気に何を企んでいるのか分からない上に、たまに私の指示なしで余計なことをするのも、この祥太郎の特徴だ。
 そう思いつつ、私は瞳を細める。
 そして。
「ご機嫌いかがかな、鳴海先生。今日も爽やかな風が、絶妙なハーモニーを王子に聴かせてくれているよ。あ、ほら、聴こえる? 先生」
「何だよ、鳴海かよっ。ていうか、何か用か!?」
 祥太郎と一緒にいた詩音と拓巳が、そう各々口を開く。
 相変わらず意味不明な詩音の言葉は敢えて無視し、私は反抗的な態度を取る拓巳に目を向けた。
「第9位だったおまえになど、用はない。黙れ」
「あ!? ていうか何だよ、第9位ってよ」
 拓巳は私の言葉に首を傾げつつ、鬱陶しそうに漆黒の前髪をかき上げる。
 こいつのことだ、私の指示にどうせ素直に従うわけはない。
 上位者は8位までと判断した私であったが、9位の拓巳のインタビューを余計にしたところで文句は言われまい。
 そう思い、敢えてこれ以上拓巳に何かを言うことはしなかった。
 それから祥太郎は、ふと私の持っているキャラ投票の資料を覗き込む。
「ん? キャラ投票? どれどれ、ハンサムくんは……と。おおっ、104票も入っとるやんか。モテる男はツライなぁっ」
 わははっと調子よく笑った後、祥太郎はさらに続ける。
「えーっと、愛のメッセージもいっぱいやなぁっ、嬉しいわ。“ちゃらけてそうで、そうじゃない”か、見る目あるなぁっ。“関西弁、最高”、いやー関西弁って日本の標準語やからなぁ、って、なんでやねんっ。なんてなぁっ。……お、“カッコイイ”か!そんな本当のこと言われると照れるやーんっ。“やっぱりこの子で!”めっちゃよく分かってるな、お目が高いっ。その上“優しい”ときたか、いやいや女の子に優しいのはハンサムの使命やからなー。“私のお嫁さんになって”って、もう明日にでも嫁げるでっ。そして“大好き”かぁ、俺も大好きやで、ありがとなっ。“しっかり者”なんてな、ドーンと頼ってくれていいで、でも女の子限定でよろしくっ。ていうかみんなありがと、愛してるでっ」
 ……本当にペラペラと、よく喋る。
 おかげでインタビュアーの私が聞くことが、なくなってしまったではないか。
 そうこうしているうちに、第8位であった詩音と第9位だった拓巳も書類に目を向ける。
「ふふ、王子の魅力という魔法にかかってしまったレディーがこんなにいっぱいいるなんて、僕って罪な王子だな。失礼、世界中のレディーたち」
「おっ、俺にもコメントきてるぞ、ありがとなっ。ていうかよ……何だか、同情っぽいもの多くねーか?」
 勝手に騒ぎ始めたヤツらの様子に、私は思わず嘆息する。
 どうしてこう、落ち着きがないんだ。
「黙れ、おまえら。余計なことを言っている暇があったら、ひとりずつおまえら如きに投票してくれた有難い読者に、メッセージを言え」
 さっさとまとめに入って、インタビューを終了したい。
 そう考え、私は早々に締めに入る。
 祥太郎はうーんと考える仕草をし、愛想の良い笑顔で言った。
「応援してくれて、ありがとなっ。あ、女の子とのデートはいつでも受付中やから、希望者はここまで応募よろしくっ」
「ていうか、どこだよっ。テレビの視聴者プレゼントかよっ」
 テレビ番組の真似事のように宙を指差す祥太郎の様子に、拓巳は呆れたようにツッコミを入れた。
 祥太郎は悪戯っぽく笑い、満足そうに笑顔を浮かべ、改めてメッセージを続ける。
「まーまーたっくん、軽いジョークやんか。いや、でもこれからも頑張るから、ハンサムの応援お願いな。投票してくれて、めっちゃ嬉しいわ。愛してるでっ」
「調子いいぜ、まったく。あ、俺に入れてくれた人、ありがとなっ。これからも、バリバリ俺はやるぜっ」
「気持ちだけ空回りせんようになー、たっくん」
「うるせーなっ。悪かったな、空回りでよっ」
 まるで漫才のような祥太郎と拓巳の言葉に、私はもう一度嘆息する。
 それから私は、まだメッセージを言っていない詩音に目を向けた。
 そんな私の視線に気がついた詩音は、マイペースに優雅な微笑みを宿し、口を開く。
「王子はお姫様の王子ではあるけど、世の女性の王子でもあるからね。寂しくなったら、耳をよく澄ましてごらん? きっと美しい妖精たちが、レディーを夢の国へと誘ってくれるよ。応援ありがとう、いつでも王子はレディーたちのそばにいるからね」
「……何かのアヤシイ宗教の勧誘みたいやな、王子様」
 そうぽつりと呟いた祥太郎の言葉にも、詩音は微笑みを絶やさない。
 私は何度目か分からない溜め息をつき、強引にまとめた。
「とにかく、だ。おまえら如きを応援してくれる有難い読者がいることを忘れるな。以上だ」
「何だよ、偉そうに。言い方いちいちムカつくんだよ、おまえはっ」
 キッと鋭い視線を向ける拓巳を相手にせず、私は3人に背を向けて歩き出した。
 それから書類を確認し、ふっと瞳を細める。
 これで何とか、上位者へのインタビューは済んだはずだ。
 あの謎な天の声も、満足だろう。
 だが……しかし。
 私がインタビュアーで、肝心の読者が満足したかがかなり謎だ。
 やはり、人選ミスだったのではないか?
 そう心の中でここまで付き合ってくれた読者に侘びを入れつつも、私は改めて思ったのだった。
 今回投票してくれたのべ1323人をはじめ、作品を読んでくれている読者の方々。
 そんなすべての有難い人たちに――心の底から、感謝すると。




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