砂の花びら
洞窟内を、一陣の風が吹きぬけた。
あたたかさと優しさ、そして静かなる大気が周囲を包む。
そしてその神の息吹が静かに止んだと同時に、ひとりの男の身体がずるりと地に崩れたのだった。
村正が狂に無明神風流のすべてを伝承をするため洞窟に入り、20日余り。
洞窟の岩肌に残る血の跡を見れば、命を懸けたその激しさが分かる。
だが薄暗い洞窟の中、美しい紅玉の瞳は美しい生命の輝きを放っていた。
澄んだ翠色の瞳にその紅だけを映し、村正は言った。
「狂……体を休め、心を静め、六感で感じとるのです……」
「…………」
肩で息をしながらも、狂は地に崩れた村正の美しい金色の髪と澄んだ翠色の瞳を見つめている。
「それが、真の……無明神風流……」
「……村正っ!」
ふっと柔らかい微笑みを浮かべた後、村正はその瞳をゆっくりと閉じた。
壬生一族の蘇生術である「精」を施し痛覚を麻痺させている村正のその身体は、すでに限界を超えていた。
村正は自分の命を懸け、自分の教えられるものすべてを狂に託したのだ。
狂は刀に体重をかけて立ち上がると、地に倒れている村正のそばへ歩み寄る。
村正の金色の髪が地に流れるように広がり、その肌は今にも消えそうな錯覚をおぼえるほど透き通るように白い。
今まさに村正の生命の光が、その輝きを失しなわんとしているのだ。
「村正……」
狂は、そんな村正の上体をゆっくりと起こす。
ふわっと金色の長い髪が小さく揺れた。
顔にかかる髪をそっと手櫛で軽く整えた後、狂は紅玉の瞳を村正に向ける。
そしてゆっくりと、色を失いかけている村正のくちびるに、自分のものを重ねた。
「……ん……」
口伝いに“気”を吹き込まれ、ピクッと村正の身体が反応を示す。
先程よりも幾分かその肌は生気を帯び始め、くちづけをされた唇も少し赤みを取り戻した。
うっすらと翠色の瞳を開き、村正は月のように柔らかい微笑みを狂に向ける。
「狂……」
「……黙ってろ、村正」
狂のくちづけにより多少覇気が戻ってきたとはいえ、村正の身体はすでにボロボロである。
「狂、あなたは本当に優しい子ですね……あなたのくちづけは、とても優しい……」
そう言ってふっと瞳を細めたあと、再び村正は狂の胸の中で意識を失う。
「…………」
腕の中で自分に体重を預ける村正を、狂は無言でじっと見つめた。
それから、その身体をおもむろに抱きかかえる。
狂は彼を抱えたまま、ゆっくりと洞窟を出た。
村正の金色の髪が夜の闇に輝く月の光に照らされ、キラキラとその美しさを増す。
そんな村正にもう一度瞳を向けた後、狂は顔を上げた。
――近くで、大きな力のぶつかり合いを感じたのだ。
『お前はその生命を、己の力で生き抜きたいか?』
いつか村正が自分に言った、その言葉。
壬生一族を滅ぼすという目的のために、彼が自分を逃がし刀を振るう術を教えたのだということを狂は知っている。
だが、それでも構わなかった。
「…………」
美しくそして今にも消えそうな儚い光を放つ村正を、狂は紅玉の瞳で無言のまま見つめる。
そして月の光に見守られながら、狂は戦いへ向かうべく足を踏み出したのだった。
FIN
村正様、本当にこの人が私は大好きです。 狂さんと村正様の師弟がまたすごく好きです。 きっと狂さんは壬生を出て村正様と一緒にいた時間、幸せだったんじゃないかと思います。 それは村正様も然りで。ぬぐいきれない大罪に罪の意識を感じながらも、幸せだったんじゃと。 ああっ、村正様本当にめっちゃ大好きだ〜!! すっかり私の脳内で姫化している彼ですが、麗しくて儚げで……大好きです!(告白) えっとこれは12巻13巻あたりの、奥義を継承すべくふたりで洞窟で修行した時の話です。 村正様の「今からこの洞窟に二人で入り、四大奥義を直にあなたの体に叩き込みます」のこの台詞、 わざわざ「二人で入り」って言う村正様に萌えた私は、やはりオカシイでしょうか?(爆) だって「二人で」ですよ!? ああっ、村正様ってばv あわわ、す、すみませんっ……この話のキスするところとかも、勝手に妄想で作っちゃいましたし; でも本当に、村正様大好きですー!! 愛してますv |
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